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On the Production
by 井口健二
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■デザート・フラワー、ウッドストックがやってくる、ライトノベルの楽しい書き方、ヤコブへの手紙、花々の過失、白夜行+製作ニュース
たが、標準語の台詞を求める監督に、友川が自らの秋田訛り
を譲らず断った話なども語られていた。
ただし、この他の人たちによる証言のシーンで、その人たち
と友川との関係が、後半に登場する息子以外は定かでなく、
どのような人たちによって語られているのかが理解できない
と、何か観ていて納得できない感じがした。
それに試写されたフィルムには英語の字幕が付いていたが、
それが肝心の友川の歌唱に対しては無く、詩が重要と思われ
る友川を描くには片手落ちの感じもした。それに英語字幕の
中で一人称のIが小文字なのも気になったところだ。
ただまあ、その辺のことは末節なのだろうし、映画では友川
の歌唱の魅力については充分に描かれていたものだ。
『白夜行』
東野圭吾の原作で、1997年に雑誌連載が開始されて99年1月
号で完結、同年単行本が刊行された、文庫本では850ページ
にも及ぶ長編ミステリー小説の映画化。
物語の発端は昭和55年。密室状態の廃工場の中で質屋の店主
が殺された。その捜査に関った所轄署の刑事笹垣は捜索の中
で数々の疑問にぶつかるが、やがて事件は事故死した容疑者
のポケットから被害者のライターが発見され、被疑者死亡の
まま幕引きとなる。
しかし事件の結論に納得できない笹垣は、被害者の妻や質屋
の従業員だった男の後を追い続けた。それはやがておぞまし
い事件の全貌を明らかにして行くことになる。
この刑事の姿に、被害者及び容疑者それぞれの子供たちのそ
の後の人生が重ね合され、そこに学校での苛めや歪んだ性風
俗、その他のいろいろな現代社会の歪みが織り込まれて、平
成10年にまで及ぶ壮大なドラマが展開されて行く。
出演は、堀北真希、高良健吾、そして笹垣役に船越英一郎。
他に戸田恵子、田中哲司、福本史織、今井悠貴らが脇を固め
ている。監督は、2008年7月紹介『真木栗の穴』などの深川
栄洋が担当。
原作はすでに舞台化やテレビドラマ化、韓国での映画化もさ
れており、まあ言ってみれば満を持しての日本での映画化と
いうことになりそうだ。その映画化は、恐らくこれ以降にな
ると時代背景の捉え方が難しくなるぎりぎりの時期のように
も感じた。
つまり昭和55年から平成10年という時代設定が、今なら観客
にも余計な説明無く受け入れられそうだが、これ以降になる
と相当の説明を加えるか、時代設定そのものを動かさないと
観客の理解が困難になる、そんなぎりぎりの時期のような気
がした。
とは言え今回の映画化ならその心配は要らないもので、僕ら
にはちょっとしたノスタルジーを感じながら観ることができ
たものだ。それはまた主人公たちの成長とも重なり合って、
見事に時代を描き切った作品とも言える。
その時代考証や背景の風景の写し方の一つ一つにも納得ので
きる作品だった。
9月に紹介したミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』と
も比較して論じたくなる作品だが、特に本作の悲しさは、ド
イツ作品とは異なる心理の深さを感じさせてくれた。
* *
今回の製作ニュースは、まずはこの話題から。待望久しい
“The Hobbit”の計画がようやく動き出しそうだ。
この計画に関しては、2003年『LOTR/王の帰還』の公
開直後からピーター・ジャクスンによる製作が公にされ、そ
の後は、監督にギレルモ・デル=トロが起用されるなど準備
が進められていた。
ところが準備が進む中で、以前に同原作のアニメーション
を製作したことから映画化権の半分を持つMGMが共同製作
に加わったものの、同社の経営破綻などのあおり受けて製作
に待ったが掛かり、さらにMGMの経営権を売却するオーク
ションにも不成立が続いたことから製作の目途が全く立たな
くなってしまった。
このためデル=トロ監督は、今年5月に已むを得ず降板を
表明。ただしその際に監督からは、「セットも衣裳も、怪物
たちや戦闘シーンのプランも全て完全に準備されている」と
の発言がされていて、後は諸問題が解決すればいいという状
況になっていたものだ。
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10月10日(日)
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