ID:47635
On the Production
by 井口健二
[460254hit]
■第22回東京国際映画祭・コンペティション以外(2)
ら、家族との間に軋轢が生まれ始める。それは彼女が「法の
書」に忠実に従っているだけのことだったのだが。
本作はイラン映画で、監督は元々はドキュメンタリーを撮っ
ていた人のようだが、まあかなりイスラム教にも辛辣に見え
る作品で、イランをイスラム原理主義の国だと思っていた者
としてはかなり驚きだった。
特に前半では、代表団の団長が主義を守ろうとしているのに
それに抵抗している団員たちの姿や、後半では「法の書」を
忠実に守ろうとする女性が出会う抵抗、さらに、その「法の
書」を逆手にとって彼女を追いつめて行く家族の姿には、邪
揄以上のものも感じられた。
でもまあこういうものが正々堂々と作られるということが、
国が正常に動いているという証明にもなるのだろう。そんな
イランの現状が見られる作品とも言えそうだ。
なお、物語の中では「ハーフェズ」の詩が多数引用されてい
てその偉大さを理解できると共に、その用法は多少違うが、
以前の東京映画祭でその名前を聞いていた者には親しみも感
じられる作品だった。
『よく知りもしないくせに』(アジアの風部門)
7月に『アバンチュールはパリで』を紹介したばかりの韓国
ホン・サンス監督の新作。
サンス監督というと、2000年の本映画祭で特別賞を受賞した
『オー・スジョン!』が印象に残るもので、その後も2006年
『浜辺の女』がコンペティションに出品されるなど関りは深
い監督だ。
その新作は、2006年の作品と同様に映画監督を主人公にした
もので、映画祭の審査員に招かれたアート系の映画監督が、
後輩なのに自分より売れている監督との確執や過去の女性と
の再会など、いろいろなものに翻弄される姿が描かれる。
物語は、監督自身の体験に基づいているのかと思える部分も
あるが、全てではないだろうし、特に映画の本筋となる部分
は創作なのだろう。かなり皮肉も込められた切ない物語が展
開されて行く。
でもまあ、映画の全体はいつものサンス監督作品らしく、緩
くて、どちらかと言うと観客にはどうでもいいような話が進
むものだ。そしてそんな中に、ちょっとニヤリとする部分が
あるのがこの監督の魅力というところだ。
因に、サンス監督は事前に脚本を用意せず、その日毎に書い
たメモを出演者に手渡して撮影を進めるという話を聞いたこ
とがあるが、本作の物語でもメモが使われているのには僕が
ニヤリとしたところだ。
出演は、『浜辺の女』にも出ていたキム・テウとコ・ヒョン
ジョン。他に『グッド・バッド・ウィアード』に出演のオム
・ジウォン、2008年1月に紹介した『裸足のギボン』に出演
のコン・ヒョンジンらが共演している。
なお本作は、今年のカンヌ映画祭監督の週間にも出品されて
いたようだ。ということは、アジアの風よりWORLD CINEMA部
門でも良かった作品のようだ。
『旅人』(アジアの風部門)
フランス在住の韓国系女性監督ウニー・ルコントによる自伝
的な作品。
因に本作は、フランスと韓国の両国間で結ばれた映画共同製
作協定に基づき、両国政府から支援の得られる施策の適用第
1号に選ばれたものだそうだ。このため本作の製作には、フ
ランスのカナル+と、韓国からは『シークレット・サンシャ
イン』のイ・チャンドン監督が製作総指揮の立場で参加して
いる。
1975年、9歳の主人公は父親の手でカトリックの修道院が運
営する孤児院に預けられる。しかし、父親に捨てられたこと
が信じられない彼女はその境遇に馴染めず、規則への抵抗や
脱走を繰り返すが、現実は厳しい姿を見せつける。
そんな中でも彼女に話し掛けてくる少女やさらに不幸な境遇
の少女の姿を見て、彼女自身も徐々に変って行くが…。それ
はまた里子に出されて行く少女たちとの別れの繰り返しでも
あった。そして、彼女自身もいつしか新たな旅立ちを夢見る
ようになって行く。
監督自身、1966年ソウル生まれで、9歳の時にフランスに渡
り、以後プロテスタントの家庭に引き取られて育ったという
ことだが、そんな彼女の人生に深く関る作品であることは確
[5]続きを読む
10月23日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る