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On the Production
by 井口健二
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■スノー・プリンス、T・ベルと月の石、インフォーマント!、ファイナル・デス・ゲーム、おとうと、パチャママの贈りもの+製作ニュース他
沿岸に堆積する塩を切り出して各地に運搬するキャラバンを
題材にしたドキュメンタリー調のドラマ作品。
それは古来から続いてきた伝統の行為。主人公はそんなキャ
ラバンを行う一家に暮らす少年。普段は父親と共に塩の切り
出しを手伝っているが、友人の引っ越しや祖母の死など彼の
生活にも変化が訪れている。
そしてその年は、高齢になった祖父に代わって少年が父親と
共にキャラバンに従事することになる。そのキャラバンはア
ンデスの山中を巡る3カ月にも及ぶ過酷な旅。しかしその間
には、各地のお祭りなども楽しむことができるのだ。
少年が塩を運搬する話では、2000年に公開されたヒマラヤが
舞台の『キャラバン』が思い出される。本作に描かれるアン
デスの自然はヒマラヤほど過酷ではないかも知れないが、そ
の一方で貧しいながらも心豊かな現地の人々の生活振りが描
かれている。
そこには、アンデス特有のフォルクローレの歌声や各地のお
祭りの様子なども登場して、全体的には現代文明の中に溺れ
て暮らす我々が忘れてしまった何かを、思い出させてくれる
ような作品だ。
監督は松下俊文。1950年兵庫県生まれの日本人で、松竹京都
撮影所に勤務した後に29歳で渡米。ニューヨークで日本語テ
レビ向けのドキュメンタリーなどを製作していたが、9/11
を目の当りにして南米に向かいウユニ塩湖に辿り着いたとの
ことだ。
その湖は古代に陸封された海がそのまま干上がったもので、
現在では一面真っ白な雪原ならぬ塩原となっているという。
そこから塩の塊を切り出してリャマの背に積み、各地に配る
のがキャラバンの仕事だ。
ただし近年では、自動車道路の発達でその伝統も急速に廃れ
つつあるようだが、それでも険しい山路ではリャマによる運
搬が欠かせないとされている。そんな自然と向き合った生活
に、9/11を体験した監督が感じ取った癒しの世界が繰り広
げられているようだ。
因に題名のPachamamaとは、アンデス先住民の言葉で「母な
る大地」という意味の言葉、原語では「パチャマンマ」と発
音されているようにも聞こえた。また本作の音楽は、駐仏ボ
リビア大使も務め、ヨーロッパを中心に活動しているフォル
クローレ歌手のルスミラ・カルピオが担当している。
なお本作は、モントリオール、バンクーバー、プラハ、サン
パウロ、リオデジャネイロなど100を超える国際映画祭に正
式出品され、作品賞や撮影賞など多数の受賞に輝いている。
* *
今回の製作ニュースは最初にヨーロッパ発の情報から。
2006年1月に紹介した『マンダレイ』などのラース・フォ
ン・トリアー監督が、2006年10月1日付第120回で紹介した
ホラー作品“Antichrist”に続いては、“Melancholia”と
題されたディザスター映画を撮ると発表した。
作品はフォン・トリアー自身の脚本に拠るもので、物語の
詳細は公表されていないが、題名の“Melancholia”は地球
に異常接近する巨大な遊星の名前のようだ。さらに「エイリ
アンが攻めてくるような話でもない」というプロデューサー
の発言も紹介されていた。
と言うことは、『地球最後の日』か『妖星ゴラス』のよう
な物語が予想されるが、製作費には500万ユーロ(約700万ド
ル)が計上されており、撮影は2010年にヨーロッパで行われ
る計画となっている。さらにディザスター映画なのでVFX
も使用されるが、敢えてハリウッドの会社とは組まないとの
ことだ。
また、脚本の台詞は英語が中心になっており、配役には国
際的な俳優が検討されているようだ。そしてその脚本は「必
ずしもhappy endingsではない」というフォン・トリアーの
コメントも発表されている。因にフォン・トリアー自身は、
「この企画が進められて極めてハッピー」だそうだ。
前作“Antichrist”に関しては、ワールドプレミアが行わ
れたカンヌ映画祭では評論家の間で賛否両論が渦巻いたよう
だが、先日行われたファンタ系のオースティン映画祭では、
若年層やジャンルファンの間で熱狂的に受け入れられたよう
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10月11日(日)
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