ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■ブラック会社…限界、谷中暮色、海角七号、スペル、バカは2回海を渡る、きみがぼくを見つけた日、倫敦から来た男、戦慄迷宮(追記)+他
うのだが…
例によってこの映画もSFで売られることはないようだ。で
も今回はそれでも良いような気がする。僕は原作を読んでは
いないが、映画だけならSF的な要素はかなり希薄に見える
作品だ。
この点に関しては、原作を読んだ人に教えを乞いたいが、映
画では時間跳躍によってSFファンが納得するような何かが
行われるものでもないし、ただ時間を越えた男女の繋がりが
ロマンティックに描かれているだけのものだ。
ただしそこには、SFファンならばこそ楽しめる仕掛けもい
ろいろ施されていて、それこそがSFとして楽しめる作品に
もなっている。でもそれを抜きにしてもこの映画は楽しめる
し、だからこの作品には、敢えてSFと主張する必要性も感
じないものだ。
脚本は、1990年『ゴースト』でオスカー脚本賞を受賞したブ
ルース・ジョエル・ルービン。ファンタスティックなラヴス
トーリーの名手ということになりそうだが、本作では施され
たファンタスティックな仕掛けにもうまさを感じさせた。
出演は、2004年『きみに読む物語』などのレイチェル・マク
アダムスと、2003年『ハルク』や今年公開された『スター・
トレック』などのエリック・バナ。また、彼らの子供時代や
その他の子役として、ブルックリン・ブルー、アレックス・
フェリス、ヘイリーとテイタム・マッキャンが見事な演技を
見せてくれる。
他に、1997年『ロスト・ワールド』のアーリス・ハワード、
2002年『アダプテーション』のロン・リヴィングストン、テ
レビシリーズ『ヒーローズ』のスティーブン・トボロウスキ
ーらが共演している。
SFで売らなくてもいいと書いたが、SFファンには観ても
らいたい作品だ。

『倫敦から来た男』“A londoni férfi”
メグレ警部のシリーズでお馴染みのベルギー生まれの推理作
家ジョルジュ・シムノンが、1934年に発表したメグレ警部の
登場しない作品の映画化。
因にシムノンの原作“L'Homme de Londres”からは、1943年
にフランスのアンリ・ドゥコワン監督による作品と、1947年
にイギリスのランス・コンフォート監督による“Temptation
Harbour”という作品も作られている。
その同じ原作から今回は、2000年『ヴェルクマイスター・ハ
ーモニー』などのハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督が脚色
映画化した。
サーカスのピエロで軽業師の男がイギリスで大金を盗み、船
でフランス語圏の湊町にやってくる。そこで先に下船した仲
間の男に金の入った鞄を投げ渡し、その後を追って下船して
くるのだが、仲間の男と争いになって仲間の男と鞄は海中に
落下してしまう。
その一部始終を目撃していたのが、近くの見張台にいた鉄道
の操車係の男。男は軽業師が立ち去ると現場に赴き、見張台
にあった道具で海中から鞄を引き上げ、隠匿してしまう。こ
うして偶然の出来事が男を犯罪に引き込んでしまうのだが…
これに操車係の家族や、イギリスから軽業師を追ってきた刑
事、さらに軽業師の妻などが登場して操車係の男の心理に迫
る物語が展開される。
メグレ警部の登場しない作品についてシムノン自身は、本格
作品という意味で「ハードな小説」と称していたようだ。そ
の「ハードな小説」が本作では、ベーラ監督のことさら重厚
な演出で見事に映像化されている。
特に、冒頭の港に接岸した船を嘗めるように撮っているシー
ンは、恐らく現在の世界の映画界ではベーラ監督以外ではで
きない技と言えそうだ。まあそれができてしまうところが鬼
才と呼ばれる所以でもある訳だが。
出演はほとんどが旧東欧圏の俳優だが、中にオスカー女優の
ティルダ・スウィントンが操車係の妻の役で出演、出番は短
いが強烈な印象を残す演技を見せている。
ただし、本作の撮影はハンガリー語の台詞で行われたようだ
が、試写で上映されたフィルムでは台詞が英語やフランス語
に吹き替えられていた。ところが、これが口元が丸で合って
おらず見苦しい。どうせ字幕なのだし、できれば原語版で上
映して欲しいものだ。

『戦慄迷宮』

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09月20日(日)
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