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On the Production
by 井口健二
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■あなたは私の婿になる、引き出しの中のラブレター、大洗にも星はふるなり、へんりっく、パイレーツロック、ちゃんと伝える、行旅死亡人
知る者には本当に楽しめる。そして今の人たちにも当時の若
者のエネルギーを感じてもらいたい作品だ。

『ちゃんと伝える』
2002年2月に紹介した『自殺サークル』などの園子温監督の
新作。
園監督の作品では、前作『愛のむきだし』がベルリン国際映
画祭で受賞するなど話題となっているものだが、僕はその作
品は観ていない。従って、僕の中の園監督は依然として『自
殺サークル』や2006年11月紹介の『エクステ』のままという
ことになる。
とは言っても、監督が作品のスタイルを変えるのはよくある
ことだし、それが成功するか否かは、それもまた興味のある
ところのものだ。作品のコンセプトなどを事前に知っていた
僕としては、そんな興味も持って試写を観に行った。
物語の主人公は、園監督の出身地でもある愛知県豊川市でタ
ウン雑誌の編集部に勤める若者。その父親は地元高校の体育
の教師でサッカー部の監督。そして息子のいた学年では、大
会での優勝を飾ったこともあるという名将のようだ。
しかし息子にとって教師であり監督の父親は、自宅でも学校
でも厳しい存在であり、なかなか打ち解けて話したこともな
かったような印象で描かれている。そんな父親が病に倒れて
からが物語の始まりとなる。
その父親は病床でも気丈に振舞ってはいるが、病状は思わし
くないようだ。そして主人公は雑誌の取材の合間には病院を
見舞うようになり、そこで父親の思い掛けない面を見いだし
たりもし始める。
園監督は昨年1月に自身の父親を亡くしたとのことで、本作
はその影響下で生まれた作品と思われる。しかし、僕自身も
今年2月に父親を癌で亡くした者としては何となく全体に違
和感が否めない作品だった。
それは葬儀の次第などいろいろだが、特には主人公の置かれ
た立場が無用に作り話めいていたことにもある。確かにこの
ような状況も現実に有り得ることではあろうが、本作の目的
が父親と息子の絆を描くことであるときに、これが必要であ
ったか否か?
結局この状況を入れたことで、本来描こうとした父親と息子
の関係とは違う方向に目が向けられることになり、それが作
品全体の方向を見失わせているようにも感じられた。物語は
シンプルに描くのが一番とも言えそうだ。
主演は、パフォーマンス集団EXILEメムバーのAKIRA。
共演は奥田瑛二、高橋恵子、伊藤歩。他に、吹越満、でんで
んらが出演している。
物語として悪い作品とは思わないが、僕自身にとっては違和
感が拭い切れなかった。なおサッカー競技でのメガネの使用
は、ルール上では問題はないが、主催団体によっては禁止し
ている大会もあるようだ。

『行旅死亡人』
前々回に紹介した『白日夢』などの脚本家井土紀州による監
督作品。東京高田馬場にある日本ジャーナリスト専門学校が
初の長編映画作品として企画製作し、同校で講師を勤める井
土監督が脚本と監督を担当した。
「熊公、お前が向こうで死んでるよ」というのは落語「粗忽
長屋」の名場面の一つだが、本作の主人公の女性は正にその
事態に見舞われる。それは彼女の名前を騙った女性が急病で
倒れ、親戚として彼女に電話が掛かってきたものだったが、
なぜその女性は彼女の名を騙らなければならなかったのか。
その謎を巡って物語は展開される。
題名は、旅行中に死亡した人、つまり行き倒れを指す言葉の
ようだが、本作は行き倒れを描いているものではない。しか
し、様々な理由で自分が自分として生きられなくなった人。
そんな人生を旅人として生きなければならなかった人の物語
が描かれる。
主人公はジャーナリストの卵、何時かは人々が注目するドキ
ュメントを書きたいと思っているが、まだその題材に行き当
たっていない。そんな彼女に電話が掛かってくる。そして訪
ねた病室のベッドに横たわっていたのは、以前の職場で親切
にして貰った先輩だった。
ところが、以前の職場に残されていた先輩の履歴書の住所を
訪ねると、そこにいたのも名前を騙られた女性。そしてそこ

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08月02日(日)
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