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On the Production
by 井口健二
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■Blood、マン・オン・ワイヤー、色即ぜねれいしょん、真夏の夜の夢、精神、BASURA、トランスポーター3
そして本作でもそんな患者たちの現実が描かれると共に、さ
らに本作では日本の医療保険制度も見渡した厳しい現実も描
かれている。特に、保険制度の変更によりこのような診療所
の経営自体も立ち行かなくなると言う指摘には唖然とさせら
れた。
因に、映画のエンドクレジットには「追悼」として映画に登
場する3人の患者の名前が出てくる。それを観るだけでもこ
の患者たちの置かれた現実の厳しさが理解できるようだ。
なお本作は、昨年10月釜山国際映画祭でプレミア上映され、
上映後には当初40分の予定だった質疑応答が終電間際までの
1時間半に及ぶほどの関心を集めたそうだ。そして同映画祭
の最優秀ドキュメンタリー賞も受賞している。
精神病というのはとかく偏見が付き纏うものではあるが、こ
の作品を観ていると偏見を持つことの愚かしさは明確に理解
できる。だからといって自分が何か行動が起こせる訳ではな
いが、少なくとも偏見を解消する努力はしたいと思った。

『BASURA』
1995年に『忘れられた子供たち』という作品で、マニラ市郊
外のごみ捨て場スモーキーマウンテンでごみ拾いをして生活
する子供たちを描いた四ノ宮浩監督が、2001年の『神の子た
ち』に続いて3度フィリピンの実情を描いたドキュメンタリ
ー作品。
僕は前の2作は観ていないが、スモーキーマウンテンに関し
てはテレビの情報番組などである程度の知識は持っていた。
その状況は、特に衛生面に関しては過去の映画で観てきたリ
オやムンバイのスラムとは違った過酷さを感じたものだ。
そんな場所を再び取材した作品だが、実はスモーキーマウン
テン自体は1995年に政府の手で閉鎖され、その後2002年には
その傍に永住住宅が建てられて、以前にごみ捨て場に暮らし
ていた人々の多くはそこに住居を与えられていた。
しかし昨年来の世界不況では、フィリピンでも住まいはあっ
ても職が無いという状況になり、しかもごみを拾う場所も遠
く離れてしまっていては、生活の術を奪われている住人も多
くなってきているようだ。
そしてマニラの町にはストリートチルドレンが溢れ、その様
子は四ノ宮が取材を開始した20年前とほとんど変っていない
ようにも観えたとのことだ。もちろんここにも世界不況の影
響は否めないが、マニラの現状にはそれを超えている面もあ
りそうだ。
そんなフィリピンの主に子供たちの状況が、明確に描かれて
いる作品だ。そしてそれは、早急に援助の手を差し伸べなけ
ればならないような、かなり切迫した状況に陥っているよう
にも観えたものだ。
という作品なのだが、実は試写会では上映前に監督の挨拶が
あって、フィリピンの窮状が訴えられた。さらに上映の後に
も、僕は次の予定があって直ちに会場を出てしまったが、監
督からはさらにお話があったようだ。
一方、映画のエンドクレジットには、この映画の製作を支援
する人たちの長々とした名簿が上映されるなど、ちょっと異
様な雰囲気が漂っていた。
しかも映画の中では、他の取材チームから「クリスティーナ
(取材対象の名前)を支援している人たち」という呼び掛け
があったり、実際に監督がクリスティーナに仕事の手伝いを
させているシーンなども登場しているのだ。
従って本作は「やらせ」ではないけれど、被写体のクリステ
ィーナが意図的に動かされている場面もある訳で、これでも
ドキュメンタリーなのだろうか…とも感じられた。
もちろん映画をこのような窮状を訴える手段として利用する
ことは、方法としてはありだとは思う。しかしここまであか
らさまにされてしまうと、何か小首を傾げてしまうような気
分にもなってしまう。
しかもそれが、特定の個人に向けられているように観えるの
にも疑問を感じた。同様の作品では2月に『チョコラ!』を
紹介しているが、ドキュメンタリー製作者にはそれなりの冷
静さも欲しいものだ。現状がそれを許さない側面を持つこと
も理解はするが。

『トランスポーター3』“Transporter 3”
リュック・ベッソンの脚本製作で、2002年11月に初紹介した

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04月26日(日)
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