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On the Production
by 井口健二
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■ワンダーラスト、アイズ、天使のいた屋上、猫ラーメン大将、未来を写した子どもたち、ワールド・オブ・ライズ、ホルテン、チェチェンへ
ため電子諜報戦に馴れたCIAはその足跡を追うこともでき
なかった。
そんな実体の見えない組織だったが、ついに主人公はその尻
尾をつかむことに成功する。そして決死の覚悟で奪った資料
からは、その組織のアジトがヨルダンの首都アンマンにある
ことまで判明する。しかもその資料の存在は敵組織には知ら
れていないようだ。
そこで主人公は、ヨルダンの諜報部とも連携して首謀者を追
い詰めようとするのだが…。CIA本部にデスクを置く上司
は彼をヨルダン支局のトップにし、裁量権は与えるものの、
ヨルダン諜報部に情報を渡すことには懸念を示し、彼の動き
を牽制し始める。
原題は「嘘の本体」とでも訳せばいいのかな、お互いの信頼
関係がなければ成立しないはずの諜報戦で、大元のCIAの
内部で虚々実々の工作が繰り広げられる。そこには、これが
現代アメリカの弱体化の真相かと思わせるような馬鹿げた官
僚主義が展開される。
原作が何を描いているかは知らないが、ここで告発されてい
るのは、官僚主義に毒されたCIAの姿であって、それには
格好の良いスパイの活躍もなければカーチェイスすらほとん
ど登場しない。ただ嘘で塗り固められた組織の弱さと横暴さ
が暴露される。
全体の雰囲気は、2005年の『シリアナ』を思い出させるが、
ジョージ・クルーニー主演作が個人レヴェルの悪であったの
に対して、本作では組織の悪が追求される。ただしどちらも
アメリカ政府への不信感が横溢したものだ。それがハリウッ
ドで映画化されている。
出演はレオナルド・ディカプリオとラッセル・クロウ。『シ
リアナ』にも出演のマーク・ストロングや、イランの国際的
女優ゴルシフテ・ファラハニらが共演。監督はリドリー・ス
コット。脚色は『ディパーテッド』でオスカー受賞のウィリ
アム・モナハンが担当した。

『ホルテンさんのはじめての冒険』“O'Horten”
2004年3月に『キッチン・ストーリー』と、07年7月に『酔
いどれ詩人になる前に』という作品を紹介しているベット・
ハーメル監督の新作。2008年カンヌ映画祭「ある視点部門」
で上映され、アカデミー賞外国語映画部門のノルウェー代表
にも選ばれている。
勤続40年の真面目な列車の運転士が最後の乗務に乗り遅れて
…。この広告文を見て、乗り遅れた列車に追いつくべく大冒
険が始まるのかと思ったら、そうではなくて、乗り遅れる前
の乗務から乗り遅れた後へと続く彼の周囲の様子が描かれて
いるものだった。
その作品は、監督の前2作と同様に人を優しく見つめるもの
で、終着駅の宿舎の女主人や、同僚、その階下の子供、老い
た母親や町での行き摩りの人々、そして犬などとの交流が、
柔らかく暖かい筆致で描かれる。
個々のエピソードは、特に取り上げて説明するほどでもない
ものだが、市井の出来事のちょっとした描写であったり、痴
呆気味の親との会話であったりの普通にありそうなことと、
他人の住居に侵入して子供に見つかったり、目隠しで運転す
る男の車に同乗したりの少し異様なものとが綯い交ぜになっ
て、主人公の最後の大冒険へ盛り上げて行く。
そのありそうなことと、なさそうなこととのバランスも絶妙
という感じの作品だ。
主演は、1936年生れ『デュカネ・小さな潜水夫』などのボー
ド・オーヴェ。その他に、1935年生れ『愛の風景』のギタ・
ナービュ、1947年生れ『キッチン・ストーリー』にも出てい
たビョルン・フローバルグ、1924年生れ『ソフィーの世界』
のエスペン・ションバルグなど北欧の名優たちが顔を揃えて
いる。
そしてもう1つの注目される登場は、主人公の運転する列車
として描かれる「ベルゲン急行」。ノルウェーの首都オスロ
と第2の都市ベルゲン間を結び、トーマスクック時刻表で毎
年「ヨーロッパ鉄道景勝ルート」に選ばれているという路線
が、雪原を驀進する列車の姿として撮影されている。鉄道フ
ァンにはこれも見所のようだ。
それから本作で主人公が遭遇する犬のモリーは、今年のカン
ヌ映画祭で「パルム・ドッグ」に選ばれているそうだ。

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10月12日(日)
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