ID:47635
On the Production
by 井口健二
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■近距離恋愛、ビルと動物園、カンフー・ダンク、マーキュリーマン、シティ・オブ・メン、ラストゲーム
に認められていた兵役の猶予を停止し、当時10万人いたとさ
れる大学生の多くを戦地に送り出すものだった。
その出陣式の5日前の10月16日に、東京早稲田の戸塚野球場
で早稲田大学野球部対慶應義塾大学野球部の対抗試合が行わ
れた。その年の4月には東京六大学リーグが解散させられて
おり、それは学徒出陣を前にした「最後の早慶戦」だった。
この野球試合が実現されるに至る物語が、早稲田大学野球部
顧問飛田穂洲を中心に描かれる。その経緯は、関係者には知
られた事実かも知れないが、僕のような部外者にはいろいろ
と興味深いものだった。
飛田は、学生野球の本分は練習にあるとの信念から、試合の
出来る見込みのない部員たちに練習を続けさせていた。従っ
て、飛田自身は再び野球が出来るとは考えていなかったよう
だ。しかし学徒出陣が決まり、部員たちに思い出を残してや
りたいとは考えていた。
その思い出作りのチャンスは思いも掛けぬ方向から舞い込ん
でくる。慶應義塾大学塾長の小泉信三が早慶戦の申し入れを
してきたのだ。その試合は、最初は神宮球場で行いたいとい
う話だった。
ところが、その計画に早稲田大学総長田中穂積が反対する。
それは一つには、観衆が5万にもなるかと予想される人々を
一カ所に集めるのは、戦時には敵の格好の攻撃目標になる心
配。今一つは、すでに軍部から目を付けられている早稲田大
学自体を案じてのことだった。
こうして計画は潰えたかに見えたが…
各人の思惑が明白で、その考え方も理解できるし、その辺は
実に判り易く作られた物語となっている。その他の登場人物
も含めた心の変節も、そこにはそれぞれ決めせりふみたいな
ものもあって、納得が行くように描かれていた。
それはこの種の物語では定番の描き方かも知れないが、それ
を真正面から描いた心地よさも感じられる作品。応援団のエ
ールの交換や、その感動から間なしに展開される過酷な戦時
の姿など、物語の構成も見事な作品だった。
反戦的な意味合いも強く、その点でも評価できる作品だ。

05月11日(日)
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