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On the Production
by 井口健二
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■シナモン+、東京少女、ちーちゃんは…、アドリブナイト、はじらい、4ヶ月3週と2日、ジプシー・キャラバン、アイ・アム・レジェンド
出の準備をしていた。それはビニールシートを用意したり、
大量の脱脂綿を用意したりというちょっと変ったもの。そし
て1人が、ボーイフレンドから金を借りるために先に出掛け
て行く。
女性は金を借りたその足でホテルに予約の確認に行くが、何
かの手違いで予約が入っていない。そして別のホテルの部屋
をとった彼女は、具合が悪くなったと連絡してきたもう1人
に代り、とある街角に男を迎えに行くが…
前段に書いた文章でも判る通り、彼女たちは違法な中絶をし
ようというものだが、もちろんそれは犯罪行為だし、そこに
は危険な罠も待ち構えている。そんな女性たちの1日の行動
を描いた作品。
物語の背景は現代ではないが、人は自由を奪われた中で如何
にしてその尊厳を保てるか、そんな究極のドラマが展開され
る。それは時代を超えて現代にも訴えかけてくるものだ。そ
して本作では、独裁制権の恐ろしさも見事に描かれていた。
実はチャウシェスクという人物は、一方でチェコ「プラハの
春」の制圧に軍隊を派遣しなかったり、1984年ロサンゼルス
オリンピックには東欧諸国で唯一選手団を派遣するなど、ど
ちらかと言うと西欧寄りの考えを持っていた。
それが一気に変貌したというのだから、自分の住んでいる国
だって、いつ何時こんな事態に陥るかも判らないものだ。そ
んな杞憂にも似た感覚もこの作品は抱かせてくれた。
主演は、ルーマニア生まれだが、イギリスのテレビやロンド
ンの舞台でも活躍し、受賞歴もあるアナマリア・マリンカ。
彼女はフランシス・フォード・コッポラ監督の新作“Youth
Without Youth”にも出演しているそうだ。
なお、本作品は共産主義時代のルーマニアの歴史を主観的に
描くプロジェクト“Teles from the Golden Age”の第1作
として製作された。何とも強烈な黄金時代だ。
『ジプシー・キャラバン』
“When the Road Bends...tales of a Gypsy Caravan”
ヨーロッパ映画やハリウッド映画に時々登場するジプシー。
旅から旅へ音楽一つで流れ歩く彼らの姿を追ったドキュメン
タリー。
作品は、基本的に2001年秋に行われた5組のジプシーバンド
による全米ツアーを追っている。それにスペイン、マケドニ
ア、ルーマニア、インドなど、彼らの故郷に取材した映像を
加えてジプシー文化そのものにもスポットを当てたものだ。
ジプシー(ロマ)の文化というのが相当奥深いものであるこ
とは想像していたが、11世紀のインドに起源を持ち、その生
活域はヨーロッパからアメリカにまで広がっている。そして
映画に登場した中ではスペインの人を除いて共通のロマ語を
話せるなど、民族の単一性もしっかり保持されている。
しかし国家を持つことを望まず、常に流浪の民として生活を
続けた人たち。実際にナチス政権下のドイツでは、ユダヤ人
と共に50万人のロマ人が虐殺されたが、ユダヤ人のようにそ
れを強調することもなく、その事実はほとんど忘れ去られよ
うとしている。
そんな流浪の民族に与えられたのは音楽の才能。彼らは音楽
を糧として世界に自己を認めさせる。その音楽の素晴らしさ
は、この映画の中で充分に聞くことができるものだ。
ジプシーと言えば、映画に登場するときは大抵が悪人の役回
りで、ユダヤ人の守銭奴以上に差別的な扱いを受けている。
だから、この映画の中でもジョニー・デップが偏見を捨てて
くれと訴えているが、それは一般社会の中でもその通りなの
だろう。
ただ、個人的には、パリでジプシーの子供たちに金品を奪わ
れそうになったことがあって(被害はなかったが)、偏見は
捨て切れないでいる。それも生活あってのことと言えばそれ
までだが、そんな差別を生み出した過去は持っているはずの
ものだ。
でもまあ、そんな偏見も追々無くしていけなければならない
物であることは確かで、そのためにもジプシーの文化をよく
知っておきたいと思うものだ。そんな期待にもある程度応え
てくれる作品と言える。
短い上映時間でロマ文化の全てを描くことは不可能だが、そ
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12月10日(月)
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