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On the Production
by 井口健二
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■モーテル、ルイスと未来泥棒、ヒッチャー、肩ごしの恋人、PEACE BED、全然大丈夫、真・女立喰師列伝
無器用な女性らの関係が描かれる。
荒川良々という俳優は脇役では何本か観ているが、如何にも
良い人という感じが、殺伐とした現代では何か胡散くさくも
見える、そんなキャラクターに感じていた。しかし今までの
作品では基本的に良い人の役柄が多くて、正直その辺が物足
りなくも思えていた。
それが本作では、多分悪気はないのだろうけど、周囲には迷
惑な、一種サイコな人物設定で、それは僕として納得できた
ものだ。実際こういう奴は世間に沢山いるし、そんな現代を
ちゃんと反映したキャラクターにも見えた。
物語は、荒川扮する古本屋の息子で、人を驚かしてはそれを
ヴィデオ撮影するのが趣味というフリーターの主人公と、そ
の主人公と一緒にアマチュア映画の制作などに参加している
が、本業は病院で総務系の仕事をしている岡田扮する友人を
中心に展開する。
一方、木村が演じるのはかなり特異な画風のクレヨン画家。
彼女は川原に住むホームレスの女性などを観察して絵にして
いるが、生活のため病院の清掃員として仕事を求めに来る。
ところが無類の無器用さで失敗続き。見兼ねた友人は、無器
用な彼女への愛しさもあってか、彼女を主人公の古本屋の店
番に紹介するが…
この彼女が描く絵を、悠久斎という人が描いていて、なかな
か面白いものがあった。また主人公の部屋には無気味なフィ
ギュアが多量に置かれているが、こちらは、2006年にテレビ
東京の番組で、「初代フィギュア王」に選ばれた寒河江弘が
造形したもので、これもいろいろ楽しめた。
この他、川原のホームレス女性の造形は映画の美術スタッフ
の作品のようだが、それなりの物にはなっていた。このよう
に、映画は全体的な美術の面でも結構楽しめる。また、挿入
歌を含む音楽もなかなか凝っているようだ。
もちろん映画はそれだけのものではないが、このようなこと
が楽しめる作品というのも、それなりの魅力とは言えるもの
だ。
共演は、田中直樹、蟹江敬三、きたろう、小倉一郎、根岸季
衣、白石加代子ら、これもなかなか楽しめる顔ぶれだった。

『真・女立喰師列伝』
押井守監督作品に時折登場する立喰師と称する無銭飲食常習
者たちの物語。それを発展させた作品では、2006年に『立喰
師列伝』という作品が発表されているようだが、今回はさら
にキャラクターを女性に限定して、6つのエピソードがオム
ニバスで制作されている。
しかも6話中の2話は押井監督によるものだが、他の4本は
それぞれ新進気鋭の若手監督が担当。さらにその主人公を、
ひし美ゆり子、水野美紀、安藤麻吹、藤田陽子、小倉優子、
佐伯日菜子が演じているものだ。
物語は、風俗的なものから西部劇、リアルなものや幻想的な
もの、SFにちょっとしたサスペンスまで種々雑多で、その
ヴァラエティの豊かさも魅力的だった。
各篇のタイトルを列挙すると、「金魚姫・鼈甲飴の有里」
「荒野の弐梃拳銃・バーボンのミキ」「Dandelion・学食の
マブ」「草間のささやき・氷苺の玖実」「歌謡の天使・クレ
ープのマミ」「ASSAULT GIRL・ケンタッキーの日菜子」とな
っている。
中で、僕が面白かったのは、小倉優子主演、神谷誠監督によ
る「歌謡の天使」という一編で、原宿のとあるクレープ屋に
現れたアイドル予備軍の少女が、クレープを食い逃げするた
めに飛んでもないことを語り出すというもの。
この虚実織りまぜた戦後昭和の裏面史とも言える語りが実に
楽しくて、しかも小倉優子のあの口調で、漢字熟語満載のナ
レーションが延々と続くのには大笑いできた。
因に、この一編と水野主演の「バーボンのミキ」は、かなり
奇想天外な食い逃げのテクニックを展開しているものだが、
その他は、食い逃げと言うよりはそこに至る彼女たちの人生
や、あるいはその後の人生が語られるもので、それも意外な
感じで楽しめた。
オムニバスは、数年前ブームのように何本か公開されたが、
意外とそれぞれの作品を短編映画として成立させるのが難し
いように思えた。それに対して本作は、テーマを「立喰師」

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10月10日(水)
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