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On the Production
by 井口健二
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■花蓮の夏、ディスタービア、コンナオトナノオンナノコ、ブレイブワン、ここに幸あり、サウスバウンド、ヒートアイランド
かも知れない。こういう路線に踏み出した監督の次の作品に
も興味を引かれるところだ。
なお、監督の作品は、いつもは配役に自分の友人たちを起用
するノンスターだが、今回は何故か『昼顔』→『夜顔』など
のミシェル・ピコリが特別な役で出演している。

『サウスバウンド』
直木賞作家奥田英朗の原作を、『間宮兄弟』の森田芳光監督
が映画化。常に正義感を振り回す元学生活動家の父親の許に
暮らす一家が、東京での生活に行き詰まり、西表に引っ越す
が…
主人公の父親は、三里塚闘争に参加していたようだ。当時の
現場写真に主演の豊川悦司を合成した写真も登場する。そん
な父親と天海祐希扮する母親の間には、すでに社会人の長女
と、小学生の長男、次女の3人の子供がいる。
その一家は東京の下町に暮らしているが、長男の通う小学校
では、かつあげが行われていたり、学校運営にも不正がある
ようだ。そして長男が正義感ゆえに問題を起し、一家は一念
発起、父親の故郷でもある西表に移住することになる。
ところがその島は、開発と自然保護の間で揺れており、一方
で父親の祖先はその昔、島の住民の権利を守るために戦った
英雄であったことが判明する。やがて、一家の暮らし始めた
古民家に、開発業者が裁判所の決定書を持って現れる。
正義感ゆえに、いつもトラブルに巻き込まれる。そんな父親
が、それでも正義のために戦う姿を息子に見せつける。
自分も70年安保闘争頃の大学生で、自分はその頃からSFの
活動を始めていたから直接闘争には参加できなかったものだ
が、傍でシンパとして見ていた立場としては、この主人公の
父親の姿には共感を覚えてしまうところだ。
その後、こんな風に一途に生きられた人間がどれだけいるか
は判らないが、無責任な政治家や資本家がはびこる現代を見
ていると、昔と全く変わっていない世情には、ふつふつと正
義感が沸き上がってくるのも理解できる。
そんな自分に極めて近い心情が、沖縄の自然を背景に、美し
く、そして気高く描かれる。なお映画は、ユーモアもたっぷ
り、痛快に描かれており、結末も大らかで良いものだ。
長男役は新人の田辺修斗、長女役は『間宮兄弟』にも出てい
た北川景子、次女役は松本梨菜。他に、松山ケンイチ、平田
満、吉田日出子、加藤治子、村井美樹らが共演。
因に、撮影は沖縄本島とは橋で繋がっている島で行われたよ
うだが、自然の残る風景には憧れも感じてしまうものだ。

『ヒートアイランド』
垣根涼介の原作を、テレビの『女帝』などを手掛ける片山修
が劇場映画デビューで撮った作品。東京渋谷を舞台に、若者
のグループとプロ強盗団と、東西やくざとの抗争を描く。
主人公は渋谷で若者たちを束ねるアキ。彼らは渋谷のクラブ
でファイトパーティーを開催して金を稼いでいたが、地元の
やくざから見か〆料を要求されるようになっている。一方、
関西やくざが経営する地下カジノが強盗団に襲われ1億円が
強奪される。
ところが、アキのグループの1人が強盗団の1人に絡み、そ
うとは知らずに分け前の入った鞄を奪ってきてしまう。そし
て鞄の中の大金を見たアキは、強盗団と関西やくざ、両方の
標的になることを覚悟するが…。この難局を如何にして切り
抜けるか…というお話。
善人は1人も登場しないお話で、言ってみれば『オーシャン
ズ』のような物語。誰が誰の金を奪おうと、良心の咎めなど
は一切関係なし、その点では気楽に観ていられる作品という
ことになる。
それにしても、主な登場人物が16人。映画の最初の方で、
登場人物に役名のテロップの付くシーンがかなり続き、こん
なにいて大丈夫かと心配もしたが、展開は見事に明快で、金
と人の動きも解り易く、これをちゃんと描ける日本人監督が
いたというのも嬉しかった。
脚色は、劇団主宰者でもあるサタケミキオ。後半の展開は原
作とは異なるようだが、このアンサンブル劇のように多様な
登場人物と入り組んだ展開の物語を、見事に一点に集約して
纏め上げている。この脚本の力もかなり大きそうだ。

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09月20日(木)
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