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On the Production
by 井口健二
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■ヒロシマナガサキ、馬頭琴夜想曲、スピード・マスター、レッスン!、題名のない子守歌、私のちいさなピアニスト
的でもあるのだが、その辺りの描き方も、主人公のそれまで
の人生の哀しみも絡めて、実に心に染みる作品だった。
物語には、幼い少女が登場する。クララ・ドッセーナという
撮影当時5歳の子役が演じているものだが、そのいたいけな
姿にはダコタ・ファニングを超えるとの声も挙がっているよ
うだ。実際、少女と主人公のシーンには、『マイ・ボディガ
ード』でのファニングとデンゼル・ワシントンとの交流を想
わせ、本作特有の背景もあって感動的に描かれていた。
トルナトーレの作品には、ノスタルジックな感覚を楽しませ
てくれるところがあるが、本作はソ連崩壊後の東欧の悲劇の
ようなものも背景に感じられ、ノスタルジーという雰囲気の
ものではない。でも、そこに漂う人間同士の暖か味は見事に
描かれていた。
なお、本作の英語題名は“The Unknown Woman”で、原題も
それに近いもののようだ。しかしその直訳はちょっと日本人
には馴染まない感じもするもので、また今回の邦題にはそれ
なりに含む意味もあって良いと感じられた。
『私のちいさなピアニスト』(韓国映画)
2003年2月に紹介した『北京ヴァイオリン』に続く、幼い頃
から天分を発揮する子供と、その指導者を巡る物語。
主人公のジスは、さほど裕福ではない親の金で音大のピアノ
科を出たものの、最後に留学の夢を果たせず挫折した。留学
から帰国した同期生は、今や母校で教授の職にある。そんな
ジスが、あまり高級とは言えない町の一角にある2階建てア
パートでピアノ教室を開く。
キョンミンはそんな町に暮らす悪餓鬼。母親を幼くして亡く
し、祖母と一緒に暮らしているが、その悪戯ぶりは手に負え
ない。ところが、ふとしたことからジスはキョンミンの面倒
を見ることになり、そこで彼が絶対音感の持ち主であること
に気づく。そして自分で彼を育て上げ、指導者として世間に
認められることを夢見るのだが…
出演は、ジス役に「韓国のマドンナ」とも呼ばれ、歌手とし
ての人気も高いオム・ジョンファ。キョンミン役は、1997年
生まれで、この映画のために1年余を掛けて選び出されたシ
ン・ウィジェ。彼は、7歳の時にピアノコンクールで1位を
獲得しているそうだ。
他に、『シュリ』『MUSA/武士』などのパク・ヨンウ。
また、韓国でクラシック界の貴公子と呼ばれ、テレビドラマ
「春のワルツ」の劇中音楽でも話題を呼んだ若手ピアニスト
のジュリアス=ジョンウォン・キムが、ラフマニノフの「ピ
アノ協奏曲第2番」を演奏するシーンも挿入されている。
物語の全体の流れは、最初にも書いたように他の作品にも描
かれているもの。しかも、それは平生の僕らの生活とは掛け
離れた世界の物語。こうした作品では、如何にして普通の生
活者との共通点を描き出せるかがポイントになると感じる。
そうでないと全くの絵空事になってしまうものだ。
その点、この作品では、過去に挫折を味わった主人公がその
トラウマを克服し、成長して行く姿を描き出すことにその共
通点を置くもので、そこに至る周囲からの台詞などには、実
に共感を呼ぶ上手い演出がされていた。
クラシックの名曲の演奏も数々聞けるし、鑑賞後の満足度は
高い作品と言えそうだ。
06月10日(日)
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