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On the Production
by 井口健二
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■卒業写真、ラッキー・ユー、恋愛マニュアル、デス・オブ・ア・ダイナスティ、陸に上がった軍艦、サイドカーに犬、オフサイド・ガールズ
肩の力を抜いた作品と言えるかも知れない。しかし、その和
らいだ雰囲気が観客にも心地よく伝わって来る素敵な作品だ
った。
薫は、現在30歳の独身キャリアウーマン。でも少し人生に疲
れ始めた彼女の許に、離婚した両親のために別々に暮らして
きた弟が結婚式の案内状を持ってやってくる。その披露宴に
は両親も顔を揃えるという。
その話を聞いた薫は、ふと20年前の両親が離婚した夏を思い
出す。そこには、一夏を一緒に過ごしたヨーコさんの思い出
があった。
夏休みの初めに母親が家出し、父親だけではどうにもならな
くなった家にヨーコさんはドロップハンドルの自転車に乗っ
てやってきた。そして彼女は、まだ10歳の薫を対等に扱い、
自転車の乗り方も教えてくれた。
原作は、芥川賞受賞作家・長嶋有の同名の小説。1980年代を
背景に、当時のいろいろな風俗を織り込みながら、1人の少
女の成長を描いて行く。
ヨーコさんを演じるのは、映画出演は久々の竹内結子。いろ
いろスキャンダルの最中で、その方面の注目も浴びることに
なってしまいそうだが、本作では人間の強さ弱さが交錯する
役柄を丁寧に演じて、好感が持てた。
そして、10歳の薫を演じるのは、1998年生まれの松本花奈。
まだ映画出演2作目ということだが、多感な少女が徐々に成
長して行く姿を見事に演じていた。撮影は、去年の夏と思わ
れるが、8歳でこの演技力はすごいものだ。
この他、古田新太、鈴木砂羽、山本浩司、ミムラ、トミーズ
雅、椎名桔平、温水洋一、樹木希林、寺田農らが共演。
山口百恵やRCサクセションの歌が聞こえたり、パックマン
が登場したり、1980年代はまずまず再現されていたように思
える。それから、缶コーラの飲み口がプルトップで、取った
口金を小指に引っ掛けて飲むシーンがあったが、まだそんな
時代だったのかな?
なおこの作品も、エンディングロールの後にワンショットあ
るから、慌てて席を立たないで貰いたい。
『オフサイド・ガールズ』(イラン映画)
2005年6月8日、イランの首都テヘランにあるアサディ・ス
タジアムでは、2006年のW杯ドイツ大会に向けたアジア最終
予選イラン対バーレーンの試合が行われようとしていた。こ
の試合は、イランが勝つか引き分ければ2度目の出場が決ま
る大事な試合だった。
そのスタジアムに向かうサポーターで満載のバスは、勝利を
信じる人々の歓声に溢れている。しかし、そのバスに人目を
避けるように乗車している人物もいた。黒い帽子を目深に被
ったその体つきは、何となくふくよかだ。
イスラム原理主義を社会の規範とするイランでは、女性によ
る男性スポーツの観戦が許されていないのだそうだ。しかし
生涯に一度あるかないかの大試合。どうしてもそれを観戦し
たい少女たちの奮闘が始まる。だがそれは、最悪死刑もあり
得る大冒険だった。
監督のジャファル・パナヒは、過去にデビュー作の『白い風
船』がカンヌで新人賞、『チャドルと生きる』がベネチアで
グランプリを受賞した名匠。そして本作は、ベルリンで審査
員特別賞を受賞し、3大映画祭制覇を達成した作品だ。
女性のスポーツ観戦を禁止することに関して、政府側には、
「場内で男性が発する汚い言葉が教育上よろしくないから、
それを女性に聞かせる訳には行かない」という大義名分があ
るようだ。
確かに、自分も競技場では人格が変わると言われている方だ
から、それもあり得るかなとも思えるが、でもどうせ本人た
ちも大声で声援を挙げていれば、周りの声など聞こえないの
も事実と言えるところだ。
なお、本作の撮影は、実際にイラン対バーレーンの試合が行
われているスタジアムの内外で行われており、かなりドキュ
メンタリーな要素もあって、面白い構成になっている。
実は、撮影の許可はすぐに下りたが、当然女性が中に入るこ
とは禁止。ところがその事実がマスコミに流れて、軍隊から
フィルム提出の命令も出たそうだ。そんな困難を乗り越えて
完成された作品ということだ。
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05月31日(木)
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