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On the Production
by 井口健二
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■キスキス,バンバン、隠された記憶、ぼくを葬る、プロデューサーズ、戦場のアリア、僕の大事なコレクション
ランス部隊はその戦場からさほど遠くない町出身の若い中尉
に率いられていた。
第1次世界大戦は、元々はドイツが圧倒的な優位のうちにフ
ランスを占領して終わるはずのものだった。しかしイギリス
の援護を受けたフランスが予想以上の抵抗を見せて膠着状態
となってしまう。
そんな戦場のクリスマスが近づいたある日、ドイツ軍は余裕
を見せつけるために最前線にクリスマスツリーを並べ、そこ
にベルリンからテノール歌手の妻が慰問に訪れる。一方スコ
ットランド軍はバグパイプの演奏を始め、フランス軍にはシ
ャンパンが振舞われていた。
そしてドイツ軍から流れたテノール歌手の歌声にスコットラ
ンド軍のバグパイプが伴奏を合わせ、その歌声にフランス軍
から喝采の拍手が沸き起こった時、テノール歌手はツリーを
手にノーマンズランドに飛び出してしまう。
しかしその行動は、フランスとスコットランドの兵士たちも
ノーマンズランドに誘い出すこととなり、そして3軍の現地
司令はクリスマス休戦を取り決めるが…
毒ガス兵器が使われるなど、最初の近代戦とも言われる第1
次世界大戦だが、最初の頃はまだ殺伐としたものではなく、
この年のクリスマスだけでなく、翌年のイースターにも休戦
が実現した戦線もあったようだ。
もちろんこの事実は軍の公式記録には載ることもなく、人々
の間で言い伝えられているだけのものだったが、近年、そこ
にいた兵士たちが家族に宛てた手紙などによってその事実が
立証され、それらの取材に基づいてこの作品が作られたとい
うことだ。
人間が、本当に人間らしくいられた頃の物語。そしてこの作
品は、それに対する戦争が如何に非人間的なものであったか
を、見事に描き出している。
なお、原題のJoyeux Noëlは、英語のMerry Christmasに当る
フランス語で、さらにドイツ語のFrohe Weihnachtenと共に
映画の中で交わされるものだ。

『僕の大事なコレクション』
             “Everything Is Illuminated”
ウクライナを舞台に、アメリカ生まれのユダヤ人の青年が祖
父の残した1枚の写真を手掛かりに、祖父の故郷の地を訪ね
るロード・ムーヴィ。
『スクリーム』などの俳優リーヴ・シュライバーの初監督作
品で、ユダヤ人の青年をイライジャ・ウッドが演じる。
青年の趣味は、所縁の品をジップバッグに封入してコレクシ
ョンすること。それを家族の顔写真と共に壁一面に張り付け
ている。そのコレクションの発端は祖父の臨終。従って祖父
の写真の下にあるのは、臨終の枕元にあったバッタ入り琥珀
のペンダントだけだった。
ところが祖母から1枚の写真を渡される。その写真では祖父
が祖母ではない女性と並んで写っており、女性の胸元は琥珀
のペンダントで飾られていた。そしてその写真の裏には、そ
の女性の名前と祖国ウクライナの地名らしきものが書き込ま
れていた。
こうして青年は、その写真を手にウクライナの地を訪れるこ
とになる。ところがそれを出迎えたのは、ウクライナでユダ
ヤ人の遺跡巡りのガイドを仕事とする一家の若者。怪しげな
英語で通訳もする若者は、運転手の祖父と共に青年の案内を
することになるが…
写真に書き込まれた地名は、旧ソ連時代の地図にも載ってお
らず、人々に訪ねても知らないと言うばかり、しかし運転手
の祖父は青年の希望を叶えようと車を走らせ続ける。
以下、ネタばれあります。
実は戦前のウクライナでは、ナチスの方がましだと言われる
ほどの激しいユダヤ人に対する迫害があったようだ。その事
実は、現代のウクライナ人の若者には教えられておらず、完
全に歴史の中に埋もれてしまっているが、もちろん年配者は
記憶しているものだ。
そんな歴史の隠された一面が、物語の中で徐々に描かれて行
く。そして地図からも消えてしまった村の謎が明らかにされ
て行く。
物語の始めの方では、ウクライナ人の若者もその祖父もユダ
ヤ人を軽蔑するような言動を行っている。それは、彼らがユ
ダヤ人を案内することを一家の仕事としているが故の発言よ

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03月14日(火)
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