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On the Production
by 井口健二
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■東京国際映画祭2005(コンペティション)
今年はちょっとこの手の作品が目立つようにも感じた。

『シレンティウム』
1991年の東京国際映画祭のヤングシネマ部門でブロンズ賞を
受賞したウォルフガング・ムルンベルガー監督の新作。ザル
ツブルグを舞台に、音楽祭を主催するカソリック教会のスキ
ャンダルを巡る物語。
監督脚本のムルンベルガーと原作脚本のウォルフ・ハース、
脚本主演のヨセフ・ハダーのトリオはすでにヒット作もある
顔ぶれということで、本作はその続編という位置付けかも知
れないが、いずれにしても手慣れたサスペンススリラーとい
う感じの作品だ。
映画で言うとジャン・レノ主演の『クリムゾン・リバー』に
も似た感じで、古びた町での教会の権力に隠された秘密が暴
露されるという展開。そこにはアクションもあり、ユーモア
もありで完成度は高い。日本で一般公開できるかというと、
俳優その他の知名度から難しいところはあるが、こういう作
品を映画祭で見せてもらえるのが、僕にとっては一番うれし
いことと言える。普通に楽しめる作品だった。

『13人のテーブル』
1946年生まれで、1984年には監督デビューをしているエンリ
コ・オルドイーニの作品。トスカーナ地方の古びた別荘を舞
台に、その別荘で青春時代を過ごした主人公がその思い出を
語る物語。
時代は1960年代。3人兄弟の末っ子の主人公はちょっと遅手
で、周囲からはゲイかも知れないと疑われている。勿論そん
なことはないのだが、ある日、彼らが暮らすトスカーナの家
に母親の友人の娘が休暇を過ごしにやってきたことから、い
ろいろな出来事が起こり始める。3兄弟は彼女と寝ることで
賭けをし、一方、同居している従兄妹がそれに絡んで…
現在の主人公をジャンカルロ・ジャンニーニが演じていて、
物語自体は多分監督自身の青春時代を描いたものだと思われ
るが、僕はもう少し年下とは言えほぼ同世代で、その物語は
僕にとっても心地よいものだった。
また、映画のテクニックも、現代の風景からカメラがパンす
るとそのまま過去になったり、現代と過去の会話が微妙にシ
ンクロしたりと、いろいろなことをしてくれて楽しめた。さ
すがにベテランの仕事という感じの作品だった。

『3日間のアナーキー』
1953年生まれで大学の映画化で教鞭も取っているというヴィ
ート・ザッカリオ監督の作品。1943年7月のアメリカ軍のシ
チリア上陸から、実際にアメリカ軍が人々の前にやってくる
までの無政府状態の3日間を描いたドラマ。
日本の終戦は、上層部が勝手に白旗を揚げてしまったものだ
から、この映画のような混乱はなかったと思われるが、アメ
リカ軍が侵攻したイタリアでは、ファシズムからの開放と未
来への希望で、人々の間にいろいろな夢が渦巻いたようだ。
この映画はそうした時代を描いている。
この映画では上映後のQ&Aにも参加したが、監督の説明で
は3日間というのは象徴的なもので、実際は戦後の1950年代
頃までに起きたことが凝縮して描かれているということだっ
た。そうしてみるとこの映画には、共産主義への憧れやアメ
リカ軍への幻滅、また農地開放やそれに対する闘争なども描
かれ、実に判りやすく戦後の混乱が描かれているという感じ
だった。
そこに性の開放までも盛り込まれたのは、ちょっと日本人の
感覚と違うかなとも思えるが、まあ日本でももっと後までの
歴史で考えればこうなのかも知れない。その辺も理解しない
と多少混乱する物語だが、戦後を戯画化した作品としては、
中々良くできているという感じの映画ではあった。

『雪に願うこと』
北海道ばんえい競馬を背景にした根岸吉太郎監督作品。映画
祭ではグランプリ、監督、主演男優と観客賞も受賞した。な
お、日本映画の大賞受賞は、第1回の相米慎二監督『台風ク
ラブ』以来となるが、当時はヤングシネマ賞だったもので、
グランプリ受賞は今回が初めてとなる。
東京に出てIT関連の事業で成功した弟。しかし詐欺まがい
の被害にあって事業も家族も失い、北海道で地道にばんえい

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11月07日(月)
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