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On the Production
by 井口健二
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■スカーレット・レター、ライフ・アクアティック、サハラ、魁!!クロマティ高校、やさしくキスをして、ピンクリボン
常に社会性を持った作品を発表し続けているローチ監督の新
作は、イギリス国内に住むイスラム教徒との関わりについて
描いている。
主人公は、グラスゴーに住むパキスタン人一家の長男。姉の
結婚が決り、自身もパキスタンに住む叔母の娘との結婚が進
められている。しかし、カソリックの学校に通う妹の出迎え
に行った主人公は、音楽教師の女性を見初めてしまう。
いろいろ世話を焼いてくれる主人公に、離婚経験のある女性
教師も心を許し、やがて2人だけのスペイン旅行を楽しむま
でになるが、その事実が発覚したとき、2人の関係は、彼の
家族をも巻き込む大変な事態に発展してしまう。
結局、頑なにイスラムの文化を守ろうとする一家と、カソリ
ック学校の教師という立場の女性との間での、宗教、文化、
その他諸々の事柄が見事に凝縮されて描かれる。
またそこには、イスラム側だけでなくカソリック側の頑なさ
も見事に描かれる。これは僕が試写を見た日が、ちょうど超
保守派と言われる新法皇が決った日であったために、余計鮮
明に見えてしまったのかも知れないが、ローチ監督の目も鋭
くこの点を描いていたように感じた。
一方、1947年の印パ紛争に始まるパキスタン人の苦難の歴史
も描かれているし、その文化や歴史の重みを背負って、異国
の現代に生きるパキスタン人の若者の苦悩は、懸命にキリス
ト教徒の彼女を愛そうとする美しいラヴストーリーと共に、
見事に描かれていた。
なお原題は、劇中で歌われる歌曲の題名でもあるが、「蛍の
光」の原詞などで知られるスコットランドの詩人ロバート・
バーンズの詩の題名によるもので、aeは‘just one’、fond
は「せつない」というような意味だそうだ。
また、映画の冒頭で主人公の妹が叫ぶサッカーチームのレン
ジャーズは、グラスゴーに本拠のある主にプロテスタントが
応援するチーム。これに対して、男子生徒が怒鳴り返すセリ
ティックは、同じくグラスゴー本拠で主にカソリックが応援
するチームだそうで、それぞれの立場がここに集約されてい
たようだ。
『ピンクリボン』
アダルトヴィデオが全盛の現在でも、年間90本以上の新作が
作られているピンク映画の歴史を追ったドキュメンタリー。
ピンク映画というのは、一般の商業映画ですらヴィデオ製作
が多くなっている現代で、今だに35mmの撮影を守り、男女の
絡みは撮るが本番は一切無しという、映倫との関係もあるの
だろうが、正直に言って奇妙な規制の中で、しかも低予算で
作り続けられている作品群。
実はこの業界からは、井筒和幸、高橋伴明、黒沢清といった
映画作家も育っている。なお、本作の監督藤井謙二郎は、黒
沢清監督の『アカルイミライ』の撮影を追ったドキュメンタ
リー『曖昧な未来』の監督でもある。
ピンク映画の第1作は1962年に製作されたということで、本
作は、その40周年に当る2002年からその翌年にかけて撮影さ
れたインタヴューを中心に構成されているようだ。
そして中では、大御所とも言える若松孝二監督を始め、上記
の3名の監督に、製作会社のプロデューサーや裏方などのピ
ンク映画の歴史を語る貴重な証言が集められている。また各
人の証言が有機的につながるなどの編集の細工もあり、ピン
ク映画の知識の無い一般の映画ファンにも楽しめる工夫が施
されている。
僕自身は、この映画のプレス資料でもピンク映画の全盛期と
いわれる1970年代に映画ファンになった世代ではあるが、な
ぜかピンク映画には足を運んだことなかった。
実際、自分自身は最初から洋画専門でもあったし、ちょうど
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04月29日(金)
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