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On the Production
by 井口健二
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■サスペクト・ゼロ、ナショナル・トレジャー、コーヒー&シガレッツ、カナリア、MAKOTO、清風明月、失われた龍の系譜
そうではないことを、もっと前面に出すべきだったようにも
感じる。
巻頭の海面に浮かぶ霊の姿などは、無気味さがあり、上記し
たその意味が判るにつれ納得できてくる訳だが、その辺の巧
さをもっと本筋の物語で発揮して欲しかった。
主人公の設定を説明するための2つのエピソードと、それか
ら本来の物語に入って行く筋立ては、定石通りで問題はない
が、やはり主人公がもっと早く妻の思いに気付き、悩み苦し
む姿があった方が良かったのではないかという感じだ。
特に、最初の幼児の霊のエピソードが、短い中にいろいろな
要素が巧みに織り込まれて上手く作られていただけに、この
畳み掛けるような構成演出の力を、本筋の物語でも再現して
欲しかったところだ。
哀川翔、ベッキーら脇役のキャラクターも良く、全体的には
好ましい作品であるだけに、歯痒さを感じるものだった。
『清風明月』“清風明月”
『MUSA』『アウトライブ』などに続く韓国製の武侠映画
(韓国では武術映画と呼ぶようだ)。
コメディ映画を多く発表しているキム・イソク監督の作品だ
が、元々監督は本編のような武侠映画を撮りたかったのだそ
うで、その思いが叶っての作品。本来なら上の2作より早く
作られるはずだったが、諸般の事情で遅れたもののようだ。
ただ早くに企画されたものであることは、この作品が全て韓
国国内で撮影されたという事実から明らかになる。上記の2
作はいずれも中国で撮影されており、本作はその流れに抗し
ている感じだが、実はそれ以前から準備された作品であるこ
とを物語っているもののようだ。
そして、その丁寧なロケーションハンティングで再現された
時代背景となる韓国の風景は見事なものだった。
物語は、戦乱の続く朝鮮王朝時代。同じ将軍の許に修業を積
み、「いつも清らかに、明るい月を愛でることのできる平和
を願う」という意味の銘の彫られた剣を授けられた2人の剣
士が、心ならずも敵味方に分かれて戦う姿を描く。
この剣の由来も2人の剣士の存在も、全てこの映画のために
作られたフィクションだそうで、全くの映画のための物語と
いうことだが、その意味ではかなり大掛りな作品をよく作り
上げたものだと思う。
しかもこの2人の剣士を、『ユリョン』のチェ・ミンスと、
『悪い男』のチョ・ジェヒョンという韓国を代表する男優が
見事に演じており、まさに映画という感じの作品だ。
さらに建設に2年掛けたという川面に25隻の船を並べた延長
250mの浮き橋と、総勢1450人のエキストラによるラストシー
ンは、なかなかの出来映えだった。
自分の目からすると、事情があるとは言え敵側に寝返り、そ
の上層部まで登り詰める主人公にはちょっと違和感があり、
他方の刺客となって高官を襲う剣士の側に感情移入がしやす
く感じる。
しかし、映画は寝返らざるを得なかった側を中心に描くこと
でドラマを作っており、その点の理解はするが、やはり重く
なりすぎた感じは持つ。やはり、両者のバランスをもう少し
平等にしてくれた方が、もっと楽しめたのではないかという
感じがした。
主人公の葛藤もそれなりに理解できるし、何より円熟した男
優2人のぶつかり合いには見応えがあったが、折角の『友へ
/チング』キム・ボギョンのヒロイン役が、見せ場も余りな
く、役不足のようにも感じた。
なお本作では、最近の韓国映画には珍しく、最初の題名及び
キャスティングの紹介にハングルだけでなく、漢字も振られ
ていた。これは監督の意向なのだろうか。
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12月14日(火)
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