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On the Production
by 井口健二
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■第17回東京国際映画祭(コンペティション)
詩作コンテストの話が伝えられるのだが…。一方、少年が隠
れ家としていた鉄道の廃車置場に、ある日パリスと名乗る男
が現れる。男は、少年に銃の扱い方などを教え始める。
脚本、監督を手掛けたのは、各国の映画祭での受賞経験もあ
るドキュメンタリー作家ということで、おそらくここに描か
れた物語は、すべて実際に起った出来事に基づくものと思わ
れる。あまりに過酷な物語だが、これが現実ということだ。
受賞はなくても、これが伝えられただけで価値があったと言
えるだろう。
『ハリ・オム』
インドのラジャスタン地方を舞台に、地元のボスに追われる
リクショー(3輪タクシー)の運転手と、恋人との豪華列車
での旅行中に彼とはぐれ、列車に乗り遅れてしまったフラン
ス人女性が、列車の次の停車駅を目指して繰り広げるまさに
ロードムーヴィ。
この地方に残る宮殿や、屋敷や、寺院などが次々に写し出さ
れ、乗物も豪華列車からヴィンテージベンツ、リクショー、
乗り合いバスや、これもヴィンテージもののオートバイ、ラ
クダまで次々に繰り出される。
そして物語は、恋人とはぐれたことで自分自身を見直すこと
になった女性自身の思いや、自分の生活を考え直さなければ
ならなくなった運転手、そして彼女との電話を通じて徐々に
変って行く恋人の男性の思いなどが、いろいろなエピソード
の中で展開して行く。
さらにインド映画特有の歌や踊りも、それぞれの場面や、登
場する人々の状況に即して繰り出されてくる。正直、今まで
のインド映画のミュージカルでは、歌や踊りがちょっと押し
つけがましいところがあったが、この作品では自然に歌や踊
りが挿入される。
物語や、歌、踊りの挿入の仕方には、インド映画が洗練され
てきたことを伺わせる。インド資本のインド映画だが、主人
公をヨーロッパ人にする辺りも、本格的に海外を意識した作
品と言えそうだ。
なお、インド人の運転手は『モンスーンウェディング』でウ
ェディングプランナーの役を好演していたヴィジェイ・ラー
ズ、フランス人の女性は『クリムゾン・リバー』のカミール
・ナタ、男性は『スイミング・プール』のジャン・マリー・
ラムールが演じている。
物語の途中で語られる古い屋敷での少年と少女の話なども素
晴らしかったし、物語の結末の造り方も良かった。
『スキゾ』
コンペティション部門で主演男優賞を受賞した作品。
カザフスタンを舞台に、病気のために「スキゾ」と仇名され
る少年を主人公にした物語。
少年は病気故に知恵遅れと見做されており、母親の恋人が仕
切る違法な拳闘試合で選手の世話をしていたが、ある日、致
命傷を負った選手の賞金を託され、彼の妻の許に届けたこと
から人生が変り始める。
一目でその女性を好きになった少年は、いろいろな悪知恵を
働かし始めるのだ。
本当に彼が知恵遅れかどうかは判然としない。しかし本当に
賢くなくても、世の中を上手く渡って行いけるしたたかさ。
そんな小気味よさが上手く描かれた作品だった。
正直に言って上手く行き過ぎの感もある作品だが、監督はド
キュメンタリーの出身ということで、社会を見つめる目には
鋭さが感じられる。その辺の裏打ちの確かさが、映画に存在
感を与えている感じがした。それでいて娯楽作品という感じ
だ。
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11月05日(金)
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