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On the Production
by 井口健二
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■風に立つ愛子さん、けものがいる、ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男、うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生
で放送作家・テレビディレクターの中村結美監督が撮影・構
成したドキュメンタリー。
織本はゴルフ好きが昂じて1990年に那須に居を構え、そこで
元は俳優仲間だった夫人と2人暮らしをしていたようだ。し
かし2013年頃から認知症の疑いが出始め、夫人との間でトラ
ブルが生じ始める。
このため娘である監督が呼ばれ、最初は医師から言われた運
転をしないなどの注意事項を守らない父親に証拠を突き付け
る目的で父親の行動を撮影し始めたのだそうだ。そこにはし
たことをしなかった平然と言い張る父の姿もあった。
それでも生涯俳優を目指す織本には出演の依頼もあり、映画
の最初は大宮駅頭で迎えの車を待つ織本の姿から始る。とこ
ろが台詞憶えの良さが自慢だった織本は台詞で閊えるように
なる。そんな姿も映画は捉えて行く。
一方で織本は、俳優は台詞を忘れることも仕事の内だと唱え
る。これは恐らく認知症を審査する医師に過去の台詞を聞か
れたことへの反論のようだが、確かに演じた役柄をいつまで
も引き摺っていては次の仕事に入って行けないのだろう。
これと同様のことは別の俳優がインタヴューで答えているの
を見たことがあるが、一辺倒の診断方法では判断の出来ない
事象もあるものだ。そんなある意味、現代の医学への疑問も
呈されていた。
そんな織本の生活ぶりが記録されて行くが、ふと監督は父が
老いを演じているのではないかと思うときもあったそうだ。
それはタイトルにもなっている織本の発言にもあるが、不用
意な姿を撮られたくない俳優の意思でもあるようだ。
そして最後の出演となった作品では臨終を迎える姿を残し、
さらに本作において老いを演じ切る。役者冥利というか、正
しく大往生という感じの「俳優織本順吉の人生」を描いた作
品だった。
でもまあ自分自身が老境と呼ばれる年代の身としてはかなり
切実に感じられるシーンも多く、鑑賞しながらいろいろと考
えさせられた。そんな学びもあり、これを公開してくれたご
一家には僕からも感謝を捧げたい気持ちだ。
公開は3月29日より、東京地区は新宿K's cinemaにてロード
ショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社パンドラの招待で試写を観て投
稿するものです。

02月02日(日)
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