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On the Production
by 井口健二
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■ペーパーシティ―東京大空襲の記憶、マッシブ・タレント、せかいのおきく、独裁者たちのとき、日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜
新緑にディゾルヴして欲しかったかな。それをしなかった理
由は知りたいものだ。
一方、試写の後で「立派な武士の娘があんな下賤な男に…」
と息巻いている人がいたが、それを言っちゃあ身も蓋もない
のであって、身分の違う恋物語は古今東西数多く存在するも
の。これはそんな庶民の話として納得できる。
そんなある意味古典的な物語が丁寧に描かれた作品だ。
公開は4月28日より、全国ロードショウとなる。
なお本作は、映画美術監督の原田満生氏が立ち上げたYOIHI
PROJECT の第1作として製作されたもの。このプロジェクト
では日本の映画人がバイオエコノミー、サーキュラーエコノ
ミーなどで世界の自然科学研究者と連携し、サステナブルを
目指した映画作りを行うということだ。
すでに第2作のドラマの製作や、2本のドキュメンタリーの
製作も発表されており、これからも注目して観ていきたいと
思っている。

『独裁者たちのとき』“Skazka/Сказка”
2002年11月紹介『エルミタージュ幻想』や、2008年10月紹介
『チェチェンへ』などのロシアの映画監督アレクサンドル・
ソクーロフが、アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、
ウィンストン・チャーチル、ベニート・ムッソリーニらの姿
を全てアーカイヴ映像のみで再構築した摩訶不思議な作品。
映画の始めに登場するイエス・キリストの台詞で「皆と同じ
ように列に並んで待つ」という言葉があり、登場人物らが最
後の審判を待っていることが推察される。そんなある種の苛
立ちを持った中での独裁者たちの行動が描かれる。
とは言うものの映画では最後の審判が直接的に描かれるので
はなく、独裁者たちは互いに貶し合ったり、褒め合ったりし
ながら冥界の道を進み、やがて天国の門の前で門扉が開くの
を待つことになる。
しかしそこに辿り着くまでには、民衆の渦が津波のように襲
い掛かるシーンや、様々な絵画などからインスパイアされた
黄泉の国の映像など、壮大な景観が観客を圧倒するようにも
なっている。
因に4人の映像は公的な機関や個人が所蔵していたものを、
単に背景から切り抜いて動きなどはそのまま使用しているの
だそうで、 CGIなどは一切使用していないとのことだ。また
台詞に関しても文献などに残された本人の発言とされる。
その音声はそれぞれ現代の声優の吹き替えだが、ヒトラーは
独語、スターリンはジョージア語、チャーチルは英語、ムッ
ソリーニはイタリア語になっている。さらにアラム語による
キリストの台詞はソクーロフ監督が吹き替えている。
そしてそれらの台詞が、皮肉であったり、現代社会に対する
警句であったり、様々な意味に捉えられる。しかもそれらは
過去の独裁者たちが発したものなのだ。そこら辺がソクーロ
フ監督が本作に込めた思いなのだろう。
それにしても描かれる4名はいずれも第2次世界大戦の主要
なメムバーだが、そこに昭和天皇が入っていないのはほっと
するところかな。もっともソクーロフ監督は2005年『太陽』
ですでに描いたから良しとしたのか。
その点では、日本人としてはあまり悩まず観られる作品では
あった。僕自身は右翼ではないが、映画の公開に要らぬ横槍
が入るのは願い下げにしたい。そんな意味で悩ましくはない
作品ということだ。
公開は4月22日より、東京は渋谷ユーロスペースにてロード
ショウとなる。

『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』
1967年4月18日に劇団「天井桟敷」の旗揚げ公演を行う寺山
修司が構成を担当し、同年の2月9日に放送されたテレビド
キュメンタリー『日の丸』を基に、寺山の没後40周年となる
2023年に改めてその意味を問う作品。
オリジナルはマイクを持った女性が日の丸を中心とした様々
な質問を町行く人に次々にぶつけるというもの。その感情を
込めない質問の仕方も鮮烈で、何かもやもやしたものが自分
の中に巻き起こってくるような作品だ。
その同じ質問を現代に行ったら果たして違いは生じるのか、
そんなところが本作の制作意図かな。しかし元が矢継ぎ早の

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01月29日(日)
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