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On the Production
by 井口健二
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■第30回東京国際映画祭<コンペティション部門>
たくなる作品だった。

『泉の少女ナーメ』“Namme”
2016年6月紹介『みかんの丘』など、近年目覚ましいジョー
ジアの作品。村人から癒しの水と崇められる泉を守ってきた
一家。その当主には3人の息子がいたが、それぞれ別々の道
に進み、家にいるのは娘だけ。その娘は泉の水を汲んで村を
回り、病の村人たちを癒していたが…。村の近くで工事が始
まり、川が濁り、泉の水位が下がり続ける。そして泉に住ま
う魚も元気がなくなってくる。泉の上に掲げた松明を離れて
点すなど少し幻想的なシーンもあるが、全体的には父親と息
子、娘と男性の関係など人間的な物語が展開される。内容は
ジョージアの伝説に基づくそうで、芸術大学で教鞭も取るザ
ザ・ハルヴァシ監督は神秘性と人間性の融和を描きたかった
ようだが、本作では遊離しているように感じられた。

『迫り来る嵐』“暴雪将至”
1990年代後半の中国社会が経済発展に向けて激変した時代を
背景に、ある工場の周囲で起きた連続殺人事件に挑む保安主
任の姿を描く。主人公は役職柄警察内部にも通じており、残
忍な手口の遺体発見現場にもずかずか入り証拠を集める。そ
してある手掛かりを発見する。そんな彼は犯人の足跡を追う
内に1人の女性と知り合い、一緒に暮らすようになるが…。
監督は北京電影学院卒業で映画のスチールカメラマン出身、
本作が初長編のドン・ユエ。カメラマンらしい映像が特徴的
とも言える作品だ。ただし物語の結末がかなり曖昧で、夢落
ちとも取れるし、それに事件のポイントとなる片足だけ靴を
履いた男の姿が時間軸に合わない感じもした。

『アケラット−ロヒンギャの祈り』“阿奇洛”
最近国連でも問題にされたミャンマーからのロヒンギャ難民
を描いたマレーシアの作品。北部のタイ国境近くに暮らす主
人公は台湾留学を夢見る若い女性。しかしようやく貯めた資
金を親友に盗まれ、複数の言語に堪能な彼女は止む無くロヒ
ンギャ難民の手引きをする組織に加わることになる。しかし
それは邪魔な難民を殺すことも厭わない危険な場所だった。
ミャンマー側での虐殺も問題だが、マレーシアでもこんなこ
とが行われているとは、かなり問題な作品だ。しかもその矛
先が自国民にも向いている。特に主人公に思いを寄せる若者
の末路は驚きだった。監督は、2014年11月2日「東京国際映
画祭」で紹介『爆裂するドリアンの河の記憶』などのエドモ
ンド・ヨウ。問題意識は高い監督だ。

『スパーリング・パートナー』“Sparring”
2012年10月紹介『裏切りの戦場』などのマチュー・カソヴィ
ッツの主演で、引退間際のボクサーを描いた作品。主人公は
49戦して13勝しかしていないミドル級のボクサー。彼は50戦
したら引退すると妻に約束していたが、その対戦がなかなか
決まらない。そんな時、地元でタイトルマッチが発表され、
元チャンピオンで今回の挑戦者がスパーリングの相手を求め
ていることを知る。そして現チャンプと戦ったことのある主
人公はその相手に応募するが、スパーリングはパンチを受け
続けるために試合よりも危険が伴うものだった。脚本と監督
は新人のサミュエル・ジュイ。ボクシングに掛ける主人公の
人生観みたいなものが見事に描かれ、普段はボクシングの試
合など観ない僕にも心に残る作品だった。

 以上の15作品が今年のコンペティション。
 今年は全作品を紹介したが、特に首を傾げたくなるような
作品は無かった。そこで僕が選ぶ各賞は、
東京グランプリ:スヴェタ
審査員特別賞:ナポリ、輝きの陰で
最優秀監督賞:ギヨーム・ガリエンヌ(マリリンヌ)
最優秀男優賞:マチュー・カソヴィッツ(スパーリング…)
最優秀女優賞:ラウラ・コロリョヴァ(スヴェタ)
最優秀芸術貢献賞:泉の少女ナーメ
最優秀脚本賞:スヴェタ
観客賞:迫り来る嵐

 これに対して実際の受賞は
東京グランプリ:グレイン
審査員特別賞:ナポリ、輝きの陰で
最優秀監督賞:エドモンド・ヨウ(アケラット…)
最優秀男優賞:ドアン・イーホン(迫り来る嵐)

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11月04日(土)
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