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On the Production
by 井口健二
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■第29回東京国際映画祭<コンペティション部門>
れ、恐らくパリの現状が描かれているのだろう。ただしその
パスポートを巡る話が中途半端だったり、物語の全ては描き
切れていない。
主人公の問題にしても、其れなりの決着はあるがそれでよし
とは到底言えない状況。そんな中途半端な話ばかりが羅列さ
れている感じだ。全てが中途半端なままそれで終ってしまう
のは最近の映画の潮流ではあるのかもしれないが。

『天才バレエダンサーの皮肉な運命』
               “После тебя”
天才と謳われて国際的に活躍したが、自らの傲慢さとそれに
よって生じたとされる怪我で現役を引退したダンサーが、思
いの外に短い余命を告げられ最後の勝負に出る。そこに実の
娘とされる少女などが登場して物語が開幕する。
最初にDAYと表示されて1日で彼の性格などが紹介され、
次にWEEKと表示されて主人公の来歴や現状が描かれる。
そしてMONTHと表示されて…。この構成が極めて巧みで
物語自体も面白い。
また、主演の俳優が見事なソロダンスを見せたり、彼の娘を
演じる子役もちゃんと踊ってみせる。その準備の周到さも伺
える作品だ。完成度は今回のコンペ作品の中では頭抜けてい
ると思えた。

『私に構わないで』“Ne gledaj mi u pijat”
クロアチアの観光地を舞台に、華やかな街とは裏腹に底辺の
生活を余儀なくされる若い女性を描く。主人公は病院の検査
課に勤めているが安泰ではない。家には障害を抱える兄と口
煩いだけの母親、それに厳格な父親がいる。
その父親が突然倒れ、一家の生計が彼女の上にのし掛ってく
る。そして今までは誠実だった彼女の生活態度が徐々に崩れ
始める。
全世界的な不況は止まる所を知らず、今映画祭の上映作品の
中でもそのような背景の作品が多く見られる。それは行方も
定まらぬ暗中模索といった感じのものばかりだ。
その中で本作は最後に微かに何かが見えているようで、それ
が希望とは限らなくても、少しほっとする作品だった。

『浮き草たち』“Tramps”
過って留置所に入ってしまった兄に代って多少は真面目な弟
がアタッシュケースの運び屋を頼まれる。ところがケースを
交換する相手を間違えてそれを取り戻さなければならなくな
る…、といういたって有り勝ちなストーリーお話。
展開にはそれなりに工夫もあって観ている間はまあ面白かっ
たのだが、この物語では本来交換するはずだったアタッシュ
ケースがそのままになっており、話の辻褄が全く合わない。
物語上の多少の齟齬は目を瞑れる場合もあるが、本作程度の
話ではそれは出来ないだろう。
シナリオはもう少し慎重に書いて欲しいものだ。

『ミスター・ノー・プロブレム』“不成问题的问题”
1943年に発表されたという抗日戦争当時の富豪が経営する農
園とその使用人の姿を描いた小説の映画化。どんな問題も手
際よく解決する雇われ番頭を主人公に、生産性は高いが収益
の上がらない農園の状況が描かれる。
元の小説は新聞に連載されたものとかで、次から次に登場人
物が現れて、様々な問題が主人公の番頭に襲い掛かる。ただ
当時の国情を反映してか、それぞれの政治思想などはあまり
深く描かれず、また人間性に対する描き込みも中途半端で、
全体的には物足りない作品だった。
モノクロ、固定カメラという当時を髣髴とさせる映像は見事
ではあったが。
        *         *
 以上16本が今年のコンペティション作品。事前の試写会を
含めて今年は全作品を鑑賞することができた。
 そこでまず映画祭の各賞は、
グランプリ:ブルーム・オヴ・イエスタディ
審査委員特別賞:サーミ・ブラッド
最優秀監督賞:ハナ・ユシッチ(私に構わないで)
最優秀女優賞:
   レーネ=セシリア・スパルロク(サーミ・ブラッド)
最優秀男優賞:
   パオロ・バレステロス(ダイ・ビューティフル)
最優秀芸術貢献賞:ミスター・ノー・プロブレム
観客賞:ダイ・ビューティフル

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11月04日(金)
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