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On the Production
by 井口健二
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■第26回東京国際映画祭《アジアの未来部門》《ワールド・フォーカス部門》
イ小説に特有の感じもするが、それを映画にそのまま持って
こられてもどうかと思う。やはり映画なりの脚色は必要だっ
たのではないかな。演出は悪くないと思ったが。

『シチリアの裏通り』“Via Castellana Bandiera”
パレルモ出身で舞台演出家としても評価の高い女流のエンマ
・ダンテが監督主演したシチュエーション・コメディ作品。
ローマからパレルモを訪れた女性2人の乗用車が道に迷い。
狭い裏通りで地元の老女が運転する対向車と遭遇する。そし
て互いに道を譲らない2台の対決は、後続車や周囲の住民も
巻き込んで大騒動へと発展する。裏では賭けが行われたり、
これがシチリアだと思わせる物語が展開して行く。ただ最後
に突然風景の変わるのが物語的に意味不明で論議となった。
映画の中で監督扮する女性が、実は地元出身で「この辺の風
景も変わった」と語る台詞はあったものだが…

『魂を治す男』“Mon âme par toi guérie”
亡くなった母親から治癒の超能力を受け継いでいるらしい男
の物語。しかし彼はトレーラーハウスに住む浮草暮らしで、
人生に不安と虚無感を抱いていた。2008年東京国際映画祭で
最優秀女優賞を獲得した『がんばればいいこともある』のフ
ランソワ・デュペイロン監督の新作だが、主人公の態度には
イライラさせられた。それはこういう能力に対しての人間の
反応として有り得るものかもしれないが、これでは神の悩み
を描いているに過ぎず、何の超能力も持たない自分には感情
移入もできない。思いつきとしては面白いが、観客に訴える
ものは明確にして欲しかった。

『トム・アット・ザ・ファーム』“Tom à la ferme”
今年6月20日付「フランス映画祭」で紹介『わたしはロラン
ス』のグザヴィエ・ドラン監督が、今年のヴェネチア映画祭
で批評家連盟賞を受賞した作品。監督が演じる主人公のトム
は親友の葬儀に参列するため友の実家である農場を訪れる。
しかし実家の母親は息子の恋人が来ないことに苛立ちを顕に
しており、粗暴な兄も同意見のようだ。だが実は…、前作と
同様にゲイを描いた作品だが、前作が社会派的に問題を訴え
ていたのに対し本作は心理サスペンスのスリラー。しかも、
かなりエンターテインメント性もあり、作品としての完成度
も高く感じられた。

『ボーグマン』“Borgman”
映画の巻頭に外宇宙からの侵略を示唆するテロップが示され
る。その物語では、郊外の邸宅に現れた男が言葉巧みに家人
に取り入り、やがて仲間も引き入れて邸宅を占領して行く様
子が描かれる。それは一面ではジャック・フィニーの『盗ま
れた街』のようでもあり、また一方ではミヒャエル・ハネケ
監督の『ファニー・ゲーム』も思い出させる。でも理解でき
るのはそこまで、お話の全体では彼らの目的も不明だし、そ
れが巻頭のテロップにあるとしても、描かれるドラマでそれ
が達成されているとも思えない。確かにハネケの作品も目的
は不明だが、そこに感じられたものは本作にはなかった。
        *         *
 以上、これも新設の《ワールド・フォーカス部門》では、
21本上映の内の9作品を鑑賞した。以前の《ワールドシネマ
部門》は各地の映画祭受賞作が並んだが、部門のコンセプト
が変更されたらしく、出品はされても受賞に至ってはいない
作品がほとんどだったようだ。
 しかしその中で受賞作の『トム・アット・ザ・ファーム』
などはさすがに見応えがあったもので、受賞は伊達ではない
とも感じさせた。でもまあ今回は、受賞作ではない『ホドロ
フスキーのDUNE』が観られたことで僕は満足だったが。
 因に、今回の映画祭では上記の他に特別招待作品1本と、
8Kプレゼンテーションの短編作品1本を加えて合計30本を
鑑賞した。全体の上映本数は96本だったそうで、これは前年
よりかなり減少しており、昨年までのnatural TIFF部門消滅
の影響はかなり強く感じられた。
 ただし映画祭の運営に関しては、プレス向けの試写などの

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10月27日(日)
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