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On the Production
by 井口健二
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■汚れなき祈り、アンナ・カレーニナ、体温、愛アムール、暗闇から手をのばせ、カルテット!、ジャンゴ繋がれざる者、魔女と呼ばれた少女
くなる。その状態は、程なくして何事もなかったかのように
元に戻るのだが、妻はその間の記憶を失っていた。
こうして病院で検査を受けた妻は、日常の生活に問題はなく
退院したものの、徐々に痴呆が進んでいることは明らかだっ
た。しかも二度と入院はしたくないという妻に、夫は自宅で
の介護を決意するが…
出演は、1927年生まれの85歳、本作で史上最高齢のオスカー
主演女優賞候補になっている1959年『二十四時間の情事』、
2010年4月紹介『華麗なるアリバイ』などのエマニュエル・
リヴァと、1930年生まれの81歳、1966年『男と女』や1969年
『Z』(カンヌ国際映画祭で主演男優賞受賞)などのジャン
=ルイ・トランティニャン。
他に、2002年9月紹介『8人の女たち』や、2006年6月紹介
『ママン』などのイザベル・ユペール、2012年ヴィクトワー
ル賞でクラシック音楽部門の年間最優秀ソリスト賞を受賞の
ピアニストで、本作にはオーディションに参加して選ばれた
というアレクサンドル・タローらが脇を固めている。
オリジナルは1997年に発表されて、2008年9月にハリウッド
リメイクを紹介した『ファニー・ゲーム』などでも知られる
ハネケ監督は、一般的に人間嫌いではないかと言われている
そうだ。リメイク作品や前作『白いリボン』ので彼が描いた
登場人物は確かにそんな印象を持つ。
しかし本作の老夫婦には、そんな単純な論評では割り切れな
い人間性も感じられる。ただし周囲の人間には、多少厳しい
表現もあって、やはり基本は人間嫌いなのかなとも思わせる
部分もあった。監督はこれがリアルな現実で、それを描いて
いるだけと主張しているようだが。
僕自身、両親が老老介護だった時期を観ていた頃もあって、
本作にはいささか身につまされる部分も多い作品だった。そ
れは将来の自分自身でもある訳で、そんな覚悟を促されてい
るような作品でもあった。
『暗闇から手をのばせ』
元は雑誌編集者で、その後に漫画原作コンテストで大賞を受
賞、漫画原作者や吉本のコント作家なども経て現在はNHK
エンタープライズに所属してテレビドキュメンタリーを制作
しているという戸田幸宏監督の第1回作品。
因に本作は、NHKのドキュメンタリー用に取材したが内容
を拒否されたため、フィクション化して自己資金による自主
映画として制作したものだそうだ。
描かれているのは、身障者専門のデリヘル嬢。作品の中でも
人口に対する障害者の割合などが示され、その人たちが家の
中で性処理もできないまま暮らしている現状が語られる。そ
して組織を運営している人物は元は福祉関係とされており、
この辺は取材で出てきた話なのかもしれない。そんな男の許
で働く新人デリヘル嬢を中心に物語は展開される。
そこには進行性の筋ジストロフィーで余命幾ばくもなく、自
分の身体は自分のものだと主張して全身にタトゥーを入れて
いる若者や、事故で身体の自由を失って厭世的になっている
少年、さらには先天性多発性関節拘縮症の男性など、様々な
客が現れる。その一方では、身障者を騙る招かれざる客も登
場する。
出演は、2010年7月紹介『TENBATSU』などに出演のグラビア
アイドルの小泉麻耶。他に津田寛治、森山晶之、モロ師岡、
それにお笑い芸人のホーキング青山らが脇を固めている。因
に作品の一部は青山の著作も参考にしているようだ。
テーマはかなり過激だし、まあNHKでは拒否されても仕方
ないかなあという感じだ。しかし描かれている内容は真実と
思えるものだし、この現実は間違いなくあるのだろう。そん
な自分たちが目を逸らし勝ちな真実の姿を、この作品はある
意味小気味良く描いている。
それは敢えて興味本位と取られることも覚悟の上で、恐らく
今まで目を逸らしていたであろう人たちに対して、その現実
を真っ向から伝えようとしているものだ。
ただしそれは諸刃の剣でもあって、肝心の人たちが観ない可
能性はある。でもそんなことも含めてこれはこれで現実なの
だし、そんなことでも良いのではないか…。そんな風にも思
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01月30日(水)
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