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On the Production
by 井口健二
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■パーティは銭湯から…、虚空の鎮魂歌、サイバーゲドン、天のしずく、人生の特等席、最初の人間、ユニバーサル・ソルジャー+World's End
た道程と、現在・未来などが撮されている。しかしそこに撮
されているのは単に辰巳の姿だけでなく、日本の現状や戦争
を含めた日本の昭和の歴史が描き出されているものだ。そこ
には忘れてはならない歴史の悲劇も描かれる。
しかもそれを声高に主張するのではなく、静かに淡々と、辰
巳の心からのメッセージとして伝えている。そんな描き方に
も惹かれる作品だった。そこには現代ドキュメンタリーの常
として3・11も描かれるが、それも映画のメッセージに沿っ
たものになっている。
個人的には、癩病の女性の話にも注目したが、そこではあえ
て辰巳の言葉ではなく、元患者の女性の言葉として語られて
いるのも心に残るものだ。これが一般の観客にどこまで伝わ
るかは判らないが、このような悲劇が行われていた事実は、
間違いなく伝わるものだろう。
辰巳は大正13年生まれだそうで、僕の母親も大正10年の生ま
れだから、僕には自分の母親を見ているような感じもした。
その母はもはや家事も何もしていない生活になっているが、
本作の終盤で辰巳がおせちを作る姿には母の姿がはっきりと
思い出された。
僕の母もおせちの煮しめは一つずつ作って調理法で、大きな
鍋にそれぞれの材料が巧みに味付けされて行く様子は、正に
お袋の姿を思い出させてくれたものだ。そんな文化も徐々に
失われて行く。先日テレビ番組で、産業革命がイギリス料理
を消滅させたという話を聞いたが、日本も同じだ。
スープで始まった物語が煮しめで締めくくられる。そんな描
き方も素晴らしい作品だった。
脚本と監督は河邑厚徳。NHKで数多くの作品を手掛けてき
たドキュメンタリストの映画では初の作品となるようだが、
静かな中にグイグイと観客を引き込んで行く描き方はさすが
のものだ。
また作中の朗読を草笛光子、ナレーションを谷原章介、音楽
を2006年『時をかける少女』などの吉田潔が担当している。
『人生の特等席』“Trouble with the Curve”
『ミリオン・ダラー・ベイビー』など2度のオスカー監督賞
と、作品賞、名誉賞にも輝くクリント・イーストウッドが、
1993年『ザ・シークレット・サービス』以来の主演のみに専
念した作品。監督には、長年の製作パートナーであるロバー
ト・ロレンツが起用され、監督デビューを飾っている。
主人公は、アメリカ・メジャーリーグの老練スカウトマン。
何人もの名選手を見出し、リーグに勇名を馳せた男も、寄る
年波には勝てず、目に障害も発生して選手の動きをしっかり
見ることもままならない。そして球団からは、残り3ヶ月の
契約期間の延長も難しくなっている。
そんな男には一人娘がいたが、幼く母親を亡くした娘は自立
して弁護士となり、その実力は法律事務所の共同経営者の席
も目前だった。しかし最後の関門である案件のプレゼンテー
ションも間近の日、彼女は旧知の球団幹部から父親の様子を
見るように依頼される。
こうして、事務所の仕事を抱えたまま父親がスカウトに来て
いるコロラドマウンテンリーグのスタンドにやってきた彼女
は、過去に横たわる父親との確執に向かい合って行くことに
なる。そこにはかつて父親がスカウトしたものの、球団の酷
使で挫折した元選手のスカウトマンもいて…
視力の減退した主人公が音を聞いただけで球種や打撃の問題
点を言い当てるシーンなどもあって、野球の奥深かさを感じ
させる。それをまたイーストウッドが語るのだから、これは
もう野球そのものより、その世界を堪能できるものだ。その
格好良さは堪らない。
メジャーリーグが背景の作品は、最近では昨年9月紹介『マ
ネーボール』もあるが、球団経営を描いたブラッド・ピット
主演作より本作の方がより人間に近いところを描いているこ
とは確かだろう。それは様々な人間模様を描き出して行く。
共演は今年4月紹介『ザ・マペッツ』などのエイミー・アダ
ムス、2010年10月紹介『ソーシャル・ネットワーク』などの
ジャスティン・ティバーレイク。他にジョン・グッドマン、
マシュー・リラード、ロバート・パトリックらが脇を固めて
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09月30日(日)
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