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On the Production
by 井口健二
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■モンスターズクラブ、寒冷前線コンダクター、ある秘密、SHAME、青い塩、ほかいびと、僕等がいた、私が生きる肌、捜査官X+VES賞
共同脚本と監督は、2008年“Hunger”でカンヌ国際映画祭の
カメラ・ドール(新人監督賞)を受賞したスティーヴ・マッ
クィーン。1980年に他界したアメリカの俳優とは別人のアフ
リカ系イギリス人監督の第2作となっている。
2010年1月紹介『17歳の肖像』や10月24日付紹介『わたしを
離さないで』などでマリガンの魅力に取り憑かれた者には、
彼女の魅力が堪能できる。ただしアメリカではNC-17、日本
でもR18+に指定されている作品なので、その点の覚悟は必要
だ。
それと異性の兄弟を持つ、特に男性には多少微妙な感じにも
なる作品で、その点ではいろいろ考えさせられる部分も含ま
れる作品だった。脚本家がその点まで描こうとしているのか
否かは定かではないが。

『青い塩』“푸른소금”
ハリウッド・リメイクもされた2000年のファンタシー『イル
マーレ』のイ・ヒョンスン脚本監督による11年ぶりの新作。
2010年8月紹介『義兄弟』などのソン・ガンホと、1990年生
れ、韓国テレビで人気の新星シン・セギョンの共演で、韓国
裏社会の抗争に巻き込まれた男女の姿が描かれる。
主人公はプサンで調理師学校に通っている中年男性。同じ調
理台では若い女性も学んでいるが、年も離れて器用そうな彼
女に比べると主人公の手はかなり遅い。それでも何となく相
性は良さそうだ。
一方、ソウルでは組織のボスが交通事故に遭い、その瀕死の
ベッドで組織を離れた男の名前が呼ばれる。その名前に困惑
する組員たちだったが、その名前の主はプサンにいる男性だ
った。こうしてプサンの2人は組織の跡目争いに巻き込まれ
て行くが…
監督は自ら「フェミニズム」を標榜しているそうで、本作で
もソン演じる主人公が、シン扮する若い女性を守り抜いて行
く姿が描かれる。そんな物語がプサンの美しい海岸線などを
背景に写し出される。
共演は、韓流ドラマを通じて日本でもファンが多いというチ
ョン・ジョンミョンとキム・ミンジュン。他に、2010年6月
紹介『パラレルライフ』などのイ・ジョンヒョク、昨年5月
紹介『ハウスメイド』などのユン・ヨジョンらが脇を固めて
いる。
映画の後半では、政治も絡む陰謀とソウルの高層ビルを使っ
た少しトリッキーなガンアクションなども展開され、上映時
間2時間2分の作品は全編がかなりのテンションで描き切ら
れている。それは観客にも心地よい緊張感を与える作品にな
っていた。
因に題名の「塩」は、調理師学校での調味料として登場する
が、取りすぎると死期を早めるなど、様々な意味合いで使わ
れている。本作は、『イルマーレ』のファンタシーを期待し
て行くと多少違うが、フェミニズムという点では間違いなし
の作品だ。

『ほかいびと 伊那の井月』
幕末から明治期にかけて長野の伊那谷を放浪した漂泊の俳人
・井上井月の伊那谷での姿をドキュメントとフィクションで
描いた作品。作中の井月を舞踏家の田中泯が演じている。★
井月は、越後・長岡藩士の子として1822年に生れたとされる
が、その前半生は定かではない。その井月は1858年頃に伊那
谷に現れ、以来1887年に生涯を閉じるまでの約30年間を家も
持たず、祝い事があれば祝いの句を詠み、祝杯を楽しみつつ
その地に暮らした。
そんな井月の伊那谷での暮らしぶりが、田中が墓所などを訪
ね歩くドキュメントと再現ドラマ、また一部には田中のパフ
ォーマンスも織り込んで描かれる。さらにそこには伊那谷の
四季の風景や風物詩なども写されている。
そして伊那谷での井月は、最初は珍しがられ、その後には重
宝がられ、最後は疎まれていたようだ。そこには幕末に幕府
側に付いて官軍と戦った長岡藩と井月との関係や、明治新政
府が行った戸籍制度などの政策の事情も描かれる。
また、芥川龍之介が賞賛したという書や、大正期の放浪俳人
・種田山頭火に慕われたという俳句(伊那谷に約60基の句碑
があり、愛好家によって1800句が集められたという)なども
随所に登場し、俳人としての井月も克明に描かれている。

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02月19日(日)
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