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On the Production
by 井口健二
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■第24回東京国際映画祭(1)
を観ていれば解かるように描かれているのだが、その割りに
は主張が生で、何というか生硬な感じがしてしまった。これ
ならもっと直截に描いた方がすっきりしたのではないか、と
も思わせたものだ。
トルコ辺りでもこのような開発問題に直面しているのか…と
いうのは失礼な認識だとは思うが、正直なところはその違和
感も少なからずあった。その辺から僕はこの映画に乗り切れ
なかったものだが、その描き方も余り巧みではなかったよう
に感じる。
それは妙にローカルな感じで、映画としての普遍性に欠ける
思いがしたものだ。これではたぶんトルコ国内の状況を解っ
ている人の共感は得られるが、それが国際的な共感には繋が
らない。そんな感じの作品だった。
結局、制作者は自然破壊反対を唱えたいのだろうが、自らの
主張を嫌みでなく描くのにはかなりのテクニックを要するも
のだ。東京国際映画祭でならナチュラルTIFF部門の方で上映
するのが良かったのではないかとも思った。

『ガザを飛ぶブタ』“Le Cochon de Gaza”
中東パレスチナの現状を背景にしたフランス・ベルギー合作
のコメディ映画。映画祭では観客賞を受賞した。
物語の発端は、パレスチナ人の漁師が豚を釣り上げてしまう
というもの。しかしイスラム教徒にとって豚は不浄の生き物
であり、さらにはパレスチナを支配するユダヤ教徒にとって
も豚は不浄で、つまりパレスチナでは豚は行き場所のない存
在なのだ。
そこで困惑した漁師は、取り敢えず豚を自分の船の中に隠し
てしまうのだが、やがてその豚に思わぬ利用法が見つかった
り、さらにいろいろな混乱と笑いを生み出して行く。
豚がイスラム教とユダヤ教の両方で不浄の存在だと言うのは
知っていたが、このように描かれるとパレスチナの状況が一
層不思議に思えてくる。それもこの映画の制作者たちの意図
なのだろう。そして豚の周囲で展開されるエピソードも秀逸
で、パレスチナの現状の異常さが見事に描かれている感じが
した。
因に主演のカッソン・ガーベイは、2007年のサクラグランプ
リを受賞した『迷子の警察音楽隊』(2007年9月紹介)にも
主演していた人。その時も見事な演技を見せていたが、本作
でもそれは変わらない。困難な状況の中で何とかそれを打開
しようとする姿が印象的に演じられていた。
個人的には、この作品が審査員特別賞で、観客賞は『最強の
ふたり』かなとも予想していたが、これは投票の結果だから
この通りなのだろう。お陰で審査員特別賞の席が空いたよう
な感じもした。

『プレイ』“Play”
移民社会との軋轢に揺れるスウェーデンの現状を描いた同国
及びデンマーク・フランス合作映画。映画祭では最優秀監督
賞を受賞した。
東京国際映画祭のコンペティションでは何年かに1本極めて
不愉快な作品がある。また今回は後で書くように次の上映開
始まで時間が無いときには、前の上映を途中で退出しなけれ
ばならない状況もあって、この作品は途中で観るのを止めて
しまったものだ。
題名は子供の「遊び」の意味だと思うが、内容は、黒人少年
のグループがアジア人と白人の少年グループをネチネチと苛
めまくる展開を、生理的な不快感を催す描写も含めてリアル
に描いたもので、僕にはどうにも耐えられなかった。
しかしこの作品は受賞しているのだが、審査委員長の報告に
よると、この受賞は1人の審査員の強力な推薦によったらし
い。そしてその審査員というのが、実は僕は彼の作品を何本
か観ているが、サイトには1本しか掲載していない監督で、
この結果はそれで納得したものだ。
作品に対する不快感というのは、思想的なものなどいろいろ
あるが、生理的なものはそれを超越すると思う。その点で本
作はヨーロッパやアメリカの上映でも物議を醸したとされて
おり、この時点では東京のみで受賞となっていたもの。まあ
そんな作品が選ばれてしまったと言うことだ。
因に、後で最後まで観た人(複数)に話を聞いたら、結末は
さらに不快だったのだそうで、不快に感じていたのは僕だけ

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10月30日(日)
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