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On the Production
by 井口健二
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■永遠の僕たち、明日泣く、東京オアシス、密告者、灼熱の魂、一谷嫩軍記、エイリアン・ビキニの侵略、コンテイジョン、ラブ・アゲイン
物語は、かなり多岐に渡るエピソードが複雑に絡み合うが、
相互が無駄に干渉することもなく、全体は良く整理されて、
それぞれが登場人物の人間像を巧みに描き出して行く。その
構成も見事な作品だった。
さらに壮絶なアクションなども見応えのある作品だ。

『灼熱の魂』“Incendies”
昨年のアメリカアカデミー賞外国語映画部門にノミネートさ
れたカナダ(フランス語圏)映画。カナダのジニー賞では、
作品賞、監督賞、主演女優賞など8部門を独占した。
物語の始まりは、カナダ在住の中東出身女性の死去。その女
性は生前に公証人の秘書を勤めており、彼女の双子の息子と
娘がその公証人に呼ばれて遺言書の開示を受ける。そこには
2通の手紙が同封され、母親はそれらを双子の父親と兄に渡
せと言い残していた。
しかし双子にとっては、父親はすでに死んだものと思ってお
り、また兄の存在など知りもしなかった。その事態に反発す
る息子に対して、娘は母親の祖国である中東に赴き事実を調
べることを決意する。が、それは母親の数奇な運命を炙り出
すことになって行く。
キリスト教とイスラム教の狭間にあって、その宗教や政治に
翻弄され続けた1人の女性の生涯。内戦の続く中東の国家を
舞台に、壮絶なサヴァイバル劇が展開される。
物語は、レバノン出身のカナダの劇作家ワジディ・ムアワッ
ドが2003年に発表した同名の戯曲によるもので、この舞台は
2009年に日本でも上演されているそうだ。そしてその原作か
ら、2000年『渦』などのカナダの俊英ドゥニ・ヴィルヌーヴ
が脚色監督している。
その映画化は、上映時間2時間11分を8章に分けて、そのそ
れぞれで現在の娘の調査の模様と過去の母親の姿が描かれて
行く。そしてその構成の巧みさと描かれる女性の壮絶な境遇
に、片時もスクリーンから目を離せなくなる、そんな圧倒的
な力強さを持った作品だ。
主演は、2007年1月紹介『パラダイス・ナウ』などのルブナ
・アザバル。また共演には、主にカナダで活動しているメリ
ッサ・デゾルモー=プーラン、マキシム・ゴーデッド、レミ
ー・ジラールらが選ばれているが、その他の配役はシリア、
レバノン、パレスチナなど中東で選考されているそうだ。
なお僕が参加した試写会はカナダ大使館で行われたもので、
上映後には監督とのQ&Aセッションも設けられた。そこで
監督は、「物語はあくまでもフィクションで、これで子供に
歴史を教えようとしないで欲しい」と語っていたが、そのフ
ィクションの中に見事に現代世界が浮き彫りにされている感
じの作品だった。

『一谷嫩軍記・熊谷陣屋』
「シネマ歌舞伎」の新作で、平成22年4月「歌舞伎座さよな
ら公演」の最後の月に上演された演目をHD収録した作品。
「平家物語」を基に、「菅原伝授手習鑑」などの作者並木宗
輔が1751年に人形浄瑠璃として著わし、その翌年には歌舞伎
としても上演されたという古典歌舞伎の1作。「シネマ歌舞
伎」は本作が14作目になるが、本格的な古典歌舞伎の上映は
初めてのものだ。
物語は、一ノ谷の合戦において源氏の武将・熊谷次郎直実が
被る悲劇を描く。当時16歳の息子小次郎が初陣を飾ったその
合戦で、直実は平清盛の甥・敦盛の首を取ったとされている
ものだが…
その熊谷の陣屋には、戦場には来るなと申し渡してあった妻
の相模や、敦盛の母とされる藤の方も訪れて、熊谷は敦盛最
後の経緯を藤の方に語ることになる。そしてそこには、源義
経が敦盛の首を自ら検分すると現れる。
正直に言って、古典歌舞伎はかなり敷居が高い。本作でも浄
瑠璃によって語られる物語の経緯や、直実の高札の口上など
は、聞いているだけではその内容も理解できないし、これで
は物語自体もなかなか把握できないものだ。
そこで今回は、「シネマ歌舞伎」の上映館でも歌舞伎座と同
様の音声ガイドのイヤホンを貸し出すとのことで、僕もそれ
を聞きながらの鑑賞とした。そのガイドは、舞台の台詞に被
らないように聞き取りやすく、適切に行われていた。

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10月02日(日)
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