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On the Production
by 井口健二
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■女の河童、ちづる、ブリッツ、ハラがコレなんで、風にそよぐ草、モンスター上司、カリーナの林檎、アンダー・コントロール+Thin Man
今の時代に、こんな物語は夢でしかないのかも知れないけれ
ど、そんな夢物語を一時でも良いから自分の心の中に置いて
おきたい、そんな感じもしてくる作品だ。それに舞台となる
長屋には被災地の仮説住宅も想起され、その場所でこんな人
情が生まれることも祈りたくなった。
因に、映画の撮影に使われた長屋は、高崎市内に実在するも
のだそうだが、2棟の長屋の間に溝が配置された構造は理想
的な長屋の風景そのもので、ここはぜひとも保存して欲しい
と思えたもの。またその風景には、黒澤明監督の『どですか
でん』も思い出した。
映画の企画はパルコ。同じ企画の作品は以前にも1本観てい
るが、その時は監督の暴走が鼻に付いて評価できなかった。
しかし監督を尊重する製作方針は今も貫かれているようで、
本作はそれが良い方向に作用している感じのするものだ。
『風にそよぐ草』“Les herbes folles”
2004年9月紹介『巴里の恋愛協奏曲』などのアラン・レネ監
督による2009年の作品。
ドキュメンタリーの出身で、1955年『夜と霧』や1967年『ベ
トナムを遠く離れて』の一編など社会性の強い作品で印象に
残る監督も89歳。本作は以前に紹介した作品に続いて男女の
ラヴ・アフェアを描いたものだが、さすが名匠の腕は一筋縄
では行かない。
物語は、女性がひったくりに遭うところから始まり、奪われ
た財布を初老の男性が拾うエピソードへと進展する。その財
布を拾った男性は、財布の中身を検分し持ち主の名前や住所
を確認して行くが、そこで彼の頭の中にはいろいろな妄想が
湧き上がってくる。
しかし調べた住所に電話を架けるもうまく繋がらず、結局彼
は警察に財布を届けることにするが、そこからも彼の妄想は
尽きることはない。そして財布は持ち主の女性の許に戻り、
彼女からお礼の電話がが架かってくるのだが…
この妄想を語るシーンが画面の合成で描かれたり、それに何
よりこの妄想が実に有りそうで、その辺が見事に描かれてい
る。しかもその映像は、原作の独特のリズムなどを完璧に再
現しているのだそうだ。
原作は、現代フランス文学の雄とも呼ばれるクリスチャン・
ガイイの作品。過去にはマグリット・デュラス、アラン・ロ
ブ=グリエらとも組んだレネ監督が、今回は最新のベストセ
ラーに挑んでいるものだ。
主演は、監督の実生活のパートナーでもあるサビーヌ・アゼ
マと、2006年10月紹介『あるいは裏切りという名の犬』など
に出演のアンドレ・デュソリエ。2人はレネ作品で多く共演
している。
他に2007年11月紹介『潜水服は蝶の夢を見る』などのアンヌ
・コンシニ、2009年7月紹介『ココ・アヴァン・シャネル』
などのエマニュエル・ドゥヴォス、今年7月紹介『さすらい
の女神たち』の監督も務めたマチュー・アマルリックらが脇
を固めている。
2010年7月紹介『ブロンド少女は過激に美しく』は、マノエ
ル・デ・オリヴェイラ監督の100歳のときの作品だったが、
来年90歳を迎えるレネ監督もまだまだ現役で、来年公開予定
の新作の撮影もすでに完了しているそうだ。
『モンスター上司』“Horrible Bosses”
今年5月紹介『ヤバい経済学』の製作総指揮と一部の監督を
務めたセス・ゴードン監督による、上司の横暴に苦しむサラ
リーマンの姿を描いたコメディ作品。
1人目は昇進を餌に扱き使って置きながら、それはコンセン
トレーションと嘯いて望みを叶えない本部長。2人目は先代
の跡は継いだが会社経営などそっち退けで薬と女に走ってい
る馬鹿息子社長。3人目は歯科助手の男性にどこでも迫って
くる色情狂の女歯科医。
そんな横暴な上司たちに仕え、もはや忍耐もぎりぎりだが、
生活のため家族のためにはそれに耐えなければならない男た
ちが、ついに上司どもを排除するために立ち上がる…が。
何処も不況と外圧に苛まれるサラリーマンの哀感が綴られて
いる。
それにしても、これがアメリカなんだろう…と思わせる、日
本のサラリーマンで描いたら全く成立しないようなお話が展
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09月04日(日)
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