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On the Production
by 井口健二
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■心中天使、洋菓子店コアンドル、英国王のスピーチ、コリン LOVE OF THE DEAD+ベスト10
物語の舞台はゾンビ化が蔓延しているロンドン。遠くに銃声
や砲声が聞こえ、テレビではアメリカ政府が国内での原爆使
用を承認したというニュースも報じられている。そんな中で
ハンマーを片手に1軒の家に入って行く若者。その腕からは
血が滴っている。
家に入った若者はひとしきりその家の住人らしい名前を呼ぶ
が、やがて腕の血に気づき袖をまくり上げる。そこには噛み
跡と思われる傷跡から血が流れ出ていた。そう若者はすでに
ゾンビに噛み付かれ、ゾンビ化の道を歩み始めていたのだ。
そんな若者がゾンビの群れに入って人間を襲ったり、そこか
ら救出されて実家に閉じ込められたり、さらにゾンビに噛み
付かれるまでの経緯などが描かれる。つまりこの作品は、ゾ
ンビの視点からゾンビ映画を描いているものだ。
現代ゾンビ映画の創始者も言えるジョージ・A・ロメロは、
ブーム化しているゾンビ映画について、「死者に敬意を表し
て描かなければいけない」と語っているが、本作はまさにそ
れを地で行くような作品だ。
実際、多額の資金を掛けて製作されたロメロ=ゾンビ作品の
リメイクの中には、到底死者への敬意が表されているとは思
えない作品も数多く観られるが、その意味で本作はロメロ=
ゾンビ映画の正統な継承者とも言えるものだ。
しかもこの作品には、ゾンビを遊び半分で襲撃したり、利用
しようとする人間の姿や、それに対するしっぺ返しなど、ロ
メロも描き切れなかったゾンビ・ワールドが見事に描かれて
おり、それはまさにロメロ=ゾンビの発展形とも言える。
製作、監督、脚本、撮影、編集、録音はマーク・プライス。
大学でコンピュータによる映画製作は学んだが、実際の映画
製作の知識のほとんどは書籍やDVDの特典で付いてくるメ
イキングヴィデオから得たという在野の新人が、映画界に新
風を吹き込んでいる。
また、特殊メイクのミシェル・ウェッブと、出演者のアラス
テア・カートン、デイジー・エイトケンズ、タット・ウォー
リーらは商業作品に参加したことのある経験者だが、彼らも
本作には無償で協力しているとのことだ。
なお、プライス監督の次回作には、“Thunderchild”という
第2次世界大戦を背景にしたホラー作品が、今度はちゃんと
通常予算で準備中だそうだ。
        *         *
 以上が、昨年末最後に鑑賞した試写作品なので、以下には
2010年の個人的なベスト10を紹介させて貰うことにします。
対象は昨年度に日本国内で一般公開された作品で、例年通り
ベスト10は、外国映画とSF/ファンタシー映画のそれぞれ
について選出してあります。
 外国映画
1 フーズン・リバー(2009年12月紹介)
2 ハート・ロッカー(2010年2月紹介)
3 インセプション(2010年7月紹介)
4 白いリボン(2010年9月紹介)
5 クロッシング(2010年2月紹介)
6 オーケストラ(2010年2月紹介)
7 ミレニアム/ドラゴンタトゥーの女(2009年10月紹介)
8 君を想って海をゆく(2010年11月紹介)
9 デザート・フラワー(2010年10月紹介)
10 シチリア!シチリア!(2010年9月紹介)
 1位と2位の作品はフィクションではあっても現在の世界
の状況を見事に描いた作品に思えた。3位の作品は視覚効果
やSF映画として優れているのと同時に、描かれるドラマの
巧みさにも感激した。4位の作品もフィクションだが、人間
の心の闇の部分を描き切った作品と思えた。
 5位に選んだ作品には、同名のアメリカ映画(2010年9月
紹介)もあってどちらも素晴らしい作品だったが、ここでは
あえて韓国映画の方を挙げる。6位の作品はゴールデン・グ
ローブ賞の外国語映画部門の候補にも選ばれているが、コメ
ディのスタイルの中に見事な人間ドラマが描かれていた。
 7位は3部作が一気に公開された内の第1作で、シリーズ
の開幕としても登場するキャラクターの新鮮さでも感心した
作品だった。8位と9位は共に題名からは想像もできない厳
しい内容の物語でどちらも感動した。10位は堂々とした歴史

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01月02日(日)
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