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On the Production
by 井口健二
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■ナンネル、ネスト、ミツバチの羽音と地球の回転、ホームカミング、多田便利軒、サビ男サビ女、毎日かあさん、かぞくはじめました
したとかで家には戻って来ないと言い出す。歴史も伝統もな
く、人工的に作られたその町には帰るべき故郷としての思い
出もないのだ。
ところがその町で暫く駐在の居なかった交番に、新しく若い
婦警の駐在さんが赴任してくることになる。それで俄に活気
づいた主人公たちだったが、その直後から警察が怪しい動き
を見せ始める。
その一方で主人公は、息子から思い出がないと言われた町に
思い出となる祭りを始めようと思い立ち、その想いは徐々に
周囲の人たちを巻き込んで行くが…。そこには住人たちの無
関心など、いろいろな難関も待ち構えていた。
共演は、黒部進、森次晃嗣、桜井浩子。この辺でおやおやと
思った人には、ついでに音楽が冬木透、撮影が稲垣涌三、美
術が池谷仙克と続く。つまりこれは『ウルトラ』シリーズの
同窓会のようなメムバーだ。
というのも本作の脚本と監督は、『ウルトラQ』などを手掛
けた飯島敏宏。円谷プロの後は木下恵介プロダクションにも
所属した監督には、高橋惠子、秋野太作、竜雷太、林隆三、
高橋ひとみ、島かおりといった面々も集まっている。
さらにTVK系のドラマに出演していた麗奈がマドンナ役に
大抜擢の他、堀内正美、木野花、中原裕也、青山草太らが脇
を固めている。
なお映画の企画は、飯島監督に新作映画を撮らせたいという
プロデューサーの想いから始まったそうで、当初監督からは
怪獣も出てくるメルヘンな脚本が提示されたが、もっと地に
着いた作品ということで監督の実体験に基づく本作の脚本が
完成されたそうだ。
その物語は、現実にもありそうではあるが、それでいて普通
ではないかも知れない、そんな微妙なバランスが見事に取ら
れた作品だった。さらにその細部まで練り込まれた脚本や、
特に主演の高田純次がテレビでは観られない「演技」を観せ
てくれるのも楽しい作品だ。
『まほろ駅前・多田便利軒』
2006年第135回直木賞を受賞した三浦しをん原作を、瑛太、
松田龍平の共演で映画化した作品。
東京の郊外、恐らくは町田と思われる私鉄の駅前で便利屋を
開業している多田と、その多田が幼い頃に負傷させた負い目
を持つ相手の行天。その行天がとある経緯で多田の住居兼事
務所に転がり込んできたことから物語は始まる。
脚本と監督の大森立嗣の作品では、数年前の東京国際映画祭
コンペティションに出品されたデビュー作を観ているが、そ
の年は唯一その作品の紹介文をサイトにアップしなかったも
のだ。それはこちらの神経を逆撫でするような監督の作風に
も拠るものだった。
その監督の第2作は、試写状が来なかったのを幸いに観に行
かなかったが、実はデビュー作も併せて世間の評判は高かっ
たようだ。ということで今回は以前に観た作品の印象は気に
はしながらも試写会に出席した。
それで今回の作品を観ての印象は、正直に言ってしまえばデ
ビュー作のときと変らないようにも感じたが、デビュー作の
ときに特に気になった特定の事象に向けられた悪意のような
ものはなく、全体的にはスマートな作品になっているように
も思えた。
そこにはまた、弱者に対する優しさみたいなものも感じられ
て、特に映画の中盤から後半にはそのような内容が丁寧に描
かれていたように感じられた。それは多分原作の存在にも拠
るのだろうが、決して暖かくはないが優しい眼差しが感じら
れたものだ。
それは一方で、単純に暖かくしてしまったのでは現代の殺伐
として社会の中では却って不自然に見えてしまうものかも知
れず、その点でこの作品は見事に現代の日本映画ということ
なのだろう。ただし僕自身にはあまり容認したくないところ
もあるのだが。
物語は軽くもないし甘くもない。それが多分現代の日本の姿
なのだろう。それはまた、気分が落ち込んだときに観たら取
り返しの付かないことになってしまいそうな、そんな気分に
もさせられる作品だった。そんな気分が見事に描き出された
作品とも言える。
主演の2人以外には、大森南朋、松尾スズキ、麿赤兒、高良
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12月19日(日)
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