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On the Production
by 井口健二
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■デザート・フラワー、ウッドストックがやってくる、ライトノベルの楽しい書き方、ヤコブへの手紙、花々の過失、白夜行+製作ニュース
演出のリズム感も万全というものでもないが、何となく若い
出演者やスタッフが一所懸命に頑張っている感じがして、そ
れが微笑ましくも思えた作品だった。
なお原作には続編もあるようで、同じスタッフ・キャストで
製作されるならそれも観てみたいものだ。

『ヤコブへの手紙』“Pstia pappi Jaakobille”
昨年のカイロ国際映画祭やマンハイム=ハイデルベルグ国際
映画祭でもグランプリを受賞しているフィンランド作品。
女性の終身刑囚が、自分は申請していない恩赦を受けて釈放
される。しかし、肉親のところへも帰れない彼女は、刑務所
の所長の勧めもあって恩赦の申請をしたヤコブという名の盲
目の神父の許を訪れる。
とは言え12年も獄中で過ごしてきた彼女の精神は荒みきって
おり、神父が求める簡単な作業にも乗り気ではないようだ。
それでも神父は彼女を暖かく迎え入れるのだが…
その神父の求める作業とは、神父の許に届けられる救いを求
める手紙を音読し、神父の話す言葉を筆記して返信するとい
うもの。だがそんな作業も嫌々の彼女は、届いた手紙の一部
を井戸に捨ててしまったりもする。
ところが、彼女が神父の許を訪れてからほどなくして、それ
までは毎日何通もあった手紙が届かなくなる。その事態に、
自分は必要とされなくなったと悲嘆する神父。そしてやるべ
き仕事のなくなった主人公は、神父の許を出ていこうとする
のだが…
主な登場人物は、主人公と神父と郵便配達の3人だけ。北欧
フィンランドのかなり寒そうな風景の中で、主人公の心の再
生の物語が綴られて行く。そしてそこに手紙というコミュニ
ケーションの手段が巧みに描かれている。
監督は、1971年生まれというクラウス・ハロ。彼がたまたま
インフルエンザで寝込んでいたときにメールで送られてきた
名前も知らない作家の手になる物語を読み、その内容に注目
して映画化を進めたとのこと。
その作者は、休職中に映画学校で学んでいたという40歳の元
ソーシャルワーカーの女性で、彼女もたまたま教師に勧めら
れて監督にメールを送ったもの。正に偶然の重なりがこの作
品を生み出したようだ。
出演は、ジャーナリスト・作家としても活動しているという
カーリナ・ハザードと、元国立劇場の主演俳優で舞台はすで
に引退しているヘイッキ・ノオウシアイネン。ベテラン演技
者たちの共演が見事な雰囲気を造り出している。

『花々の過失』
1950年生まれ秋田県出身のフォーク歌手友川カズキの姿を、
1979年生まれパリ出身の映像作家ヴィンセント・ムーンが撮
影したドキュメンタリー作品。
被写体の友川については、この歌声はどこかで聞いたことが
あると思っていたら、2004年7月に紹介した三池崇史監督の
作品『IZO』に出演、劇中で5曲も歌っていたそうだ。そ
の他でもこの歌声は聞いた記憶があるが、それがどこでかは
思い出せない。
そんな特徴のある友川が熱唱しているライヴステージの模様
と、友川の経歴、心情、家族のことなどが描かれている。
その友川は、中学生の時に掃除当番で入った図書室で、机上
に広げてあった本の中の中原中也の詩『骨』に衝撃を受け、
自らも表現者になることを決意して詩を書き溜める。そして
上京、路上で自作の詩集を売っていたがそれに飽きたらず、
独学のギターをかき鳴らして歌い始めた。
その絶叫調の歌声は「魂の詩人」「絶叫する哲学者」などと
も呼ばれ、1970年代には大島渚監督らの文化人からも賞賛を
受け、数多くのミュージシャンにも影響を与え続けていると
のことだ。
という友川の姿が、「ミュージックヴィデオの見直し」を提
唱しているというムーン監督によって撮影されている。そこ
にはライヴステージの模様だけでなく、ギターで作曲してい
る姿やスタジオでの録音風景なども描かれている。
さらに友川本人や、その他の人たちによるいろいろな友川の
エピソードなども語られる。その中では、友川は大島監督か
ら『戦場のメリー・クリスマス』への出演のオファーもされ

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10月10日(日)
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