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On the Production
by 井口健二
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■星砂の島のちいさな…、トラブル・イン・H'ウッド、パラレルライフ、瞳の奥の秘密、セラフィーヌ、30 ROCK、ネコを探して+製作ニュース
容疑者は彼の指摘で釈放されるが、以後の捜査はほとんど行
われなくなってしまう。
その一方で主人公は、被害者の昔の写真から1人の不審な男
を割り出す。しかしその捜査も進展することはなかった。こ
うして1年が経った頃、主人公は通勤客でごった返す駅のベ
ンチで人々を監視する被害者の夫の姿を観る。
その夫は、主人公の割り出した男がブエノスアイレスに通勤
していると考え、毎日の就業後に各駅を回って監視を続けて
いるのだという。その姿に心を動かされた主人公は、助手と
共に多少の法を犯してまで捜査を続け、ついにその男を発見
逮捕するのだが…
25年前の1974年は、ファン・ペロン大統領の病死によってア
ルゼンチンの政情が不安に陥れられている頃であり、政界な
どに腐敗が蔓延る中、犯罪者にも常に正しく罰が下されると
は限らなかったのだ。
そして25年の歳月が流れ、主人公は過去の過ちを検証するた
めに小説を書き始めたのだが、それは彼自身の秘めた心情も
甦らせて行くことになる。
先に書いた韓国作品と同様、過去の暗い時代の陰が色濃く漂
う作品。そんな時代を生きざるを得なかった人々の苦悩が甦
るような作品だ。しかし本作では、その中に大いなる解決も
描かれている。その一部は苦渋に満ちたものでもあるが。
出演は、リカルド・ダリンとソレダ・ビジャミル。それぞれ
50代と40代の男優と女優のようだが、25年に跨がる物語を特
殊メイクなども駆使して見事に演じ切っている。
監督は、一時アメリカに渡ってアメリカのテレビ界で活躍、
デイタイムエミー賞などの受賞歴も有るというファン・ホセ
・カンパネラ。脚本は、エドゥアルド・サチェリの原作から
作者自身と監督が共同で脚色している。
2時間9分の上映時間をたっぷりと映画に浸らしてくれる。
恐らく今年のベスト10に選ぶであろう作品だ。

『セラフィーヌの庭』“Seraphine”
20世紀初頭のフランス画壇でアンリ・ルソーと並ぶ素朴派の
画家と称された女流画家セラフィーヌ・ルイの波乱に満ちた
生涯を描いた作品。
物語の始まりは1912年。すでに48歳のセラフィーヌは、家政
婦として働きながら天使の啓示を受けたと称する絵画の製作
を続けていた。それは、絵の具も手作りの板をカンバスにし
た作品で、普通とはちょっと違う画風を持っていた。
そんなある日、彼女が掃除などをしている屋敷の貸間に1人
の男性が入居してくる。彼の名前はヴィルヘルム・ウーデ。
ドイツ人の美術品収集家だったウーデは、その土地の美術愛
好家との交流も行うが、その中で1枚の絵に目を留める。
その絵こそは、彼が入居した屋敷の家政婦セラフィーヌの手
になるものだった。こうしてセラフィーヌの才能に気づいた
ウーデは、彼女の生活を支援しようとするのだが…第1次世
界大戦や1930年の世界恐慌などが2人の関係を翻弄して行く
ことになる。
セラフィーヌの絵画は映画の中でも何点か紹介されるが、一
部には女ゴッホとの評価も有るようで、その大胆な構図や色
彩にはかなり圧倒された。ルソーと並ぶ素朴派という評価も
有るようだが、実際映画の中でもウーデはその呼び名を嫌っ
ており、単純な素朴派とは言えない作風のものだ。
また映画の中で彼女は、賛美歌を歌いながら製作をしていた
り、天使の啓示を受けたとの台詞も有って、これは正にその
種の天才が描いた作品なのだろう。そんな彼女が、一度は脚
光を浴びて至福の時を迎えたりもするのだが…
主演は、2001年『アメリ』や2008年6月紹介『ベティの小さ
な秘密』などに出演し本作でセザール賞を受賞したヨランド
・モロー。共演は、今年1月紹介『アイガー北壁』にも出演
していたウルリッヒ・トゥクール。
脚本と監督は俳優出身のマルタン・プロヴォスト。彼はこの
作品でセザール賞の脚本賞を受賞した。また2009年のセザー
ル賞では、この他に作品、撮影、作曲、美術、衣裳デザイン
の各賞も受賞して、最多7部門に輝いている。
なお、映画の中では、20世紀初頭のフランス郊外の緑溢れる
自然の風景も美しい作品だった。


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06月20日(日)
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