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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション部門(1)
『日の名残り』やピーター・セラーズの『チャンス』とは違
った背景での物語も興味深く描かれていた。
なおアンデス山脈では、時間は直線ではなく円を描いて進む
のだそうで、それと呼応するように登場人物の周りを円を描
いて進むカメラワークにも興味を引かれた。
因に、国際題名(英語)は“Sounthern District”、邦題は
『ラパス南方の地区にて』の方が正しいと思われるが。

『台北に舞う雪』
2001年日本公開『山の郵便配達』や、2003年東京国際映画祭
で上映された『ヌアン』(2005年日本公開時の題名は『故郷
の香り』)、それに昨年8月に『初恋の想い出』という作品
も紹介しているフォ・ジェンチイ監督の最新作。
現代の台湾を舞台に、都会での歌手の夢に挫折し山間の町に
やってきた女性と、その町で慎ましく暮らす若者の静かな交
流が描かれる。
新人賞を受賞した歌手のメイは突然声が出なくなり、相談す
る相手もなく1人で山間の町に来てしまう。そこで出会った
のがモウと呼ばれる青年で、彼は父を亡くし母親とは生き別
れた後、自分の面倒を見てくれた町の人々のために身を粉に
して働いていた。
そんな青年の世話で徐々に町にも溶け込み、また青年の紹介
した漢方医の処方で歌声も取り戻して行くメイ。しかしその
頃、彼女の所属していた台北のレコード会社では彼女の捜索
も進めていた。そして1人の芸能記者が彼女の行き先を突き
止めるが…
お話自体は全く他愛ないものだし、そこで特に何かが起きる
ものでもない。でも物語の全体が、静かに佇む山間の町で心
豊かに展開されて行く。そして題名の持つ意味が見事に語ら
れる。
出演は、北京の中央戯劇学院出身でチャン・ツィイーに続く
才能と言われるトン・ヤオと、日本映画の『暗いところで待
ち合わせ』などにも出演のチェン・ポーリン。他に、モー・
ズーイー、トニー・ヤン、ジャネル・ツァイなど台湾の若手
スターが演技を競っている。
今年7月紹介の『プール』ではタイの風物詩コムローイとし
て登場した紙製の熱気球が、ここでは天燈(テンドン)とい
う名前で登場する。また、単線で2〜4両編成の気動車が走
る鉄道の風景なども美しく描かれた作品だった。

『イースタン・プレイ』
ブルガリアの首都ソフィアを舞台に、変貌して行く都市と、
その中でもがき苦しむ若者たち。そこに存在する民族間の対
立や新旧の文化の対比などが描かれる。
主人公となるのは2人の兄弟。弟は父親と一緒に暮らしてい
るがネオナチに被れて暴動にも参加している。一方の兄は、
過去の問題で親元を離れ音信不通だったらしいが、美術学校
を出て才能はあるものの、木工所で塗装の仕事をしている。
そんな2人が、弟の居るグループがトルコ人旅行者を襲い、
その現場に行き合わせた兄が旅行者たちを救ったことことか
ら邂逅する。しかしその後に兄が久しぶりの帰宅しても、父
親は冷たくしか当たれない。
そんな行き場のない若者たちの思いの中で、弟は兄への信頼
に活路を見いだそうとし、兄はトルコ人旅行者の娘に自分の
将来を夢見る。そして彼らの住む町では、旧市街が取り壊さ
れ、ビジネスセンターが作られるという広大な空き地が作ら
れている。
程度の差こそあれ、恐らくは世界中の若者たちが直面してい
る問題がこの作品に描かれている。それはネオナチなど日本
とは少し違うかも知れないが、将来への不安などその背景に
あるものは同じだろう。
なお物語は、兄を演じたフリスト・フリストフの実体験に基
づくもののようだが、その俳優は撮影終了目前に事故で亡く
なっているそうだ。
ただし本作では、ブルガリア語、トルコ語、英語がそれぞれ
の場面で使われているが、字幕でそれが区別されておらず、
一部でその状況が判りにくい部分もあった。気が付けば判る
ことではあるが、他のコンペティション作品では、括弧の使
用などで区別しているものもあり、気にして欲しかったとこ
ろだ。

『見まちがう人たち』
角膜移植によって朧げにものが見えるようになった男を中心

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10月16日(金)
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