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On the Production
by 井口健二
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■PUSH、男と女の不都合な真実、アンを探して、副王家の一族、携帯彼氏、脳内ニューヨーク+製作ニュース
自由を享受している叔父の暮らし振りに憧れていた。
一方、時代の流れの中でイタリアにも貴族を排除して民主化
を求める民衆の声が高まってくる。ところが父親は、「王の
治世には王の友。貧民の世には貧民の友」と言い放ち、貴族
社会が終焉した中でも巧みに世渡りを続けて行く。
そのやり方は奸計や策謀を弄し、家族や子供をも道具に使う
悪辣なものだった。
そんな父親に反発しながらもその呪縛から逃れられない主人
公。そして国王の名の許に行政から宗教まで支配する父親。
その父親に勘当された主人公は修道院に送られるが…、そこ
に観た修道院は修錬とは名ばかりの淫行に明け暮れていた。
原作は1894年に発表された小説だそうで、実際に当時の状況
を生々しく描いたものなのだろう。そしてこの原作からは、
1963年にルキノ・ヴィスコンティが映画化した『山猫』の原
作者も影響を受けたとされている。
ただし、この映画では1912年第1回イタリア国会開催までが
描かれ、つまりその部分は映画化の際の加筆であるようだ。
しかしその加筆部分に描かれる内容はかなり辛辣で、結局は
何が起きても何も変わらないイタリア政治の悪夢が描かれて
いる感じもした。
それがイタリア人にとっての政治意識なのかも知れないが、
今まさに日本でも政権交代が成されようとしているときに、
この結局は何も変わらないという感覚は皮肉にも取れるとこ
ろだ。
監督は1983年“Copkiller”というSF風作品もあるという
ロベルト・ファエンツア。衣装を『時計仕掛けのオレンジ』
や『バリー・リンドン』などを手掛け、後者でオスカーを受
賞したミレーナ・カノネロが担当している。
『携帯彼氏』
携帯ゲームが引き起こす死の恐怖を描いたホラー作品。
「携帯彼氏」それは女性向けの携帯電話を利用した恋愛ゲー
ム。ゲームのサイトで自分の好みの男性のキャラクターを作
成し、そのキャラクター相手にメールのやりとりをして、そ
の内容に応じてポイントが上下する…もののようだ。
ところが、主人公の友人の1人がゲームに填って家に閉じ籠
もり、挙げ句の果てに自殺するという事態が発生する。しか
も、その携帯電話からキャラクターを転送した人物も死に追
い込まれる。
そしてその2つの死の現場に居合わせることになった主人公
は、警察の事情聴取の際にそのことを訴えるのだが、当然警
察は取り合ってくれない。その上、主人公の親友や主人公自
身の携帯にもそのゲームが侵入して…
2004年に公開された『着信アリ』は、整合性のまるでない物
語のあまりのいい加減さに呆れ果て、虚仮脅かしのショック
シーンの羅列にも辟易して、試写は観たもののサイトでは紹
介しなかった。だからその亜流に観える本作にはあまり期待
もしなかった。
しかも、原作が携帯小説と聞いて一層退いた気分にもなって
いたのだが…。でも本作を観終えた時には、世の中にはこう
いう作品にも真剣に取り組んでくれる人がいることが判って
本当に嬉しくなったものだ。
2004年の作品の時には、主人公を含む不特定多数が襲われる
理由付けなどがまるで無く、それでよくもまあ物語を発表す
るものだとも呆れたものだったが、本作ではその経緯が見事
に物語として成立している。
しかもそこには主人公自身が深く関っているという展開も見
事だし、さらにその現象が起きた仕組みや、その解決方法ま
でもが理路整然と描かれている。勿論それはフィクションの
ものではあるが、それなりの納得のできる展開となっていた
ものだ。
さらにその背景となる話が、それなりに社会性のあるものに
なっているなど、本当に感心する物語が展開されていた。原
作は読んでいないが、携帯小説にもこれだけのものを書ける
作家が出てきたということなのだろう。
さらにそれを真面目に脚色し映画化できる脚本家、監督も育
ってきたということだ。その脚本は、『リアル鬼ごっこ』の
柴田一成、監督は、黒沢清の推薦で抜擢され本作が長編デビ
ュー作という船曳真珠が担当している。特に女性監督の手腕
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08月23日(日)
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