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On the Production
by 井口健二
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■あなたは私の婿になる、引き出しの中のラブレター、大洗にも星はふるなり、へんりっく、パイレーツロック、ちゃんと伝える、行旅死亡人
いる。
このため偏陸は、現在では本の装丁や演劇ポスターのデザイ
ナーとして活動する傍ら、今でも『ローラ』の上映が決まる
とスリットスクリーンの製作から出演までを手掛け、その上
映は遠くパリまでも出向いて行われている。
そんな偏陸の姿を、彼の日常や寺山所縁の人々の証言などと
共に描いて行く作品となっている。そこには『ローラ』の上
演風景がほぼ全編に亘って収録されるなど、観る機会の少な
いこの作品を擬似的に体験できるようにもなっている。
ただしこの作品で、偏陸自身が描き切れているかというと、
そこは疑問に感じざるを得ない。これは、偏陸自身があまり
己を出したがらない性格ということもあり、本作だけでは彼
の寺山に対する思いや、彼自身の感じていることや考えなど
が観えてこないのだ。
本作の中で偏陸は、寺山修司の衣鉢を継ぐかのように『ロー
ラ』や、その他の寺山作品の修復、再上演などに奔走してい
る。偏陸にそこまでさせる理由を聞きたかった。もちろん彼
が戸籍上の弟であることは大きいのだろうが、それを受け入
れた覚悟なども知りたかったものだ。
僕自身は、寺山修司という人物に対しては何の思い入れもな
いが、本作の中でその活動が垣間見られるのは良いことであ
ろう。しかしそれも本作では中途半端に終わってしまう。た
だし本作の性格上ではそれも仕方がない。
結局、本作ではそのどちらも中途半端なのが残念と言える。
偏陸という人物には確かに興味を魅かれる。もっと偏陸の内
面まで踏み込んだ作品が観てみたい、そんな気持ちが残る感
じがした。
『パイレーツ・ロック』“The Boat That Rocked”
1960年代半ばの北海。そのイギリス領海外に浮かぶ船舶から
24時間ポピュラー音楽を流し続ける海賊放送局を舞台にした
青春ドラマ。
この海賊放送は、当時イギリスのラジオ放送を独占していた
国営局BBCが、ポピュラー音楽の放送を1日45分に制限し
たことを契機として生まれたもので、若者目当てのスポンサ
ーも殺到して隆盛を極めた。そしてイギリス政府は、その撲
滅に策を弄し始める。
本作は、そんな時代を背景に、海賊放送を行っている船舶に
乗り組むことになった若者の姿が描かれる。そこにはイギリ
ス人やアメリカからやってきた名うてのDJたちがいて、伝
統やモラルも破壊する生活が繰り広げられていた。
主人公は母子家庭に育った高校生。喫煙が故で退学処分を受
け、自分の名付け親が船長を務めるその船に母親の命令で乗
船してきた。それにしても退学処分の後がモラルの無い海賊
放送局とは豪気な母親だが、こうして乗船した船での常識外
れの生活が始まる。
一方、海賊放送の垂れ流すインモラルな放送に手を焼くイギ
リス政府は、スポンサーの規制などいろいろな手段で締め付
けを行っているがなかなか成果を挙げられない。しかし、つ
いに領海外の船舶も規制できる方策を見つけ出す。
こうして、政府が新たに造り出した法律の前には海賊放送の
存在も風前の灯火となってしまうが、それでも彼らは最後の
最後まで抵抗を続ける。そしてイギリス国民もまた彼らの動
静を見守っていた。
民放が普通にあった日本やアメリカの人間には判り難いが、
放送事業が国家に独占されていたイギリスでは、いろいろな
名目で若者文化が抑圧された。そんな時代の言わば反体制と
しての海賊放送には、当時日本でラジオ文化に浸っていた僕
らも憧れを持ったものだ。
実際、日本の民放だって、放送内容にはいろいろな形での規
制があるものだし、そんな中での海賊放送は正に若者文化の
象徴のようにも観えた。そして、そんな時代の物語を敢えて
今の時代に問うことの意味が、この作品にはあるように思え
る。
脚本と監督は2003年『ラブ・アクチュアリー』などのリチャ
ード・カーティス。出演は、フィリップ・セーモア・ホフマ
ン、ビル・ナイ、リス・エヴァンス、ニック・フロスト。他
にケネス・ブラナー、エマ・トムプスンらが共演している。
1960年代のポップスもたっぷりと聞くことができて、当時の
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08月02日(日)
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