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On the Production
by 井口健二
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■童貞放浪記、8月のシンフォニー、のんちゃんのり弁、花と兵隊、僕らはあの空の下で、キャデラック・レコード、30デイズ・ナイト
で慰霊塔を建てた人、また自宅の居間に昭和天皇の写真を飾
っている人もいる。
その一方で、インパール作戦に参加する以前には、中国人と
見るや協力者か非協力者かの見境もなく殺すことを命じられ
て幾人もの中国人の子供を虐殺したとか、インパール作戦中
には戦友の人肉を食べることを命令されて食べたと証言する
人もいた。
実は登場する内の何人かは、以前に今村昌平監督が『未帰還
兵』シリーズとして取材した人たちだそうで、今回はその今
村氏が創設した日本映画学校卒の松林要樹監督が、彼らと家
族との関りを中心にその後の姿を追っている。
従って、最初の内は妻との出会いの状況などが語られている
のだが、そこから徐々に上記の発言へとシフトして行く。そ
の構成は多分に意図的なものなのだろうが、今までのこの種
のドキュメンタリーより一歩踏み込んだ戦争の恐ろしさを描
いている感じがした。
元日本兵で戦後を日本以外の地で過ごしてきた人々のドキュ
メンタリーでは、4月に『台湾人生』という作品を紹介して
いるが、今回はそれとは違った意味で戦後の日本国が置き去
りにしてきた人々が描かれる。
もちろん今回の人々は、自らの意志(戦犯になることを恐れ
て隠れた人もいる)もあってその国に留まった人々だが、そ
れでもそこにはまだ終わっていない戦後が取り残されている
感じがした。
そんな中で、上記の虐殺発言や人肉食発言をしているのは、
実は個人で慰霊塔を建立した人と同じ人なのだが、その建立
の背景には単に戦友の慰霊だけではない自分自身の懺悔の気
持ちも入っているようだ。
そして、その人物に関しては映画の最後で死去されたとのク
レジットが表示されたが、彼自身が最後に安らかな気持ちで
逝けたのかどうか、この人たちにとって戦後は死ぬまで続い
たのではないか。その姿を我々も真摯に受けとめる必要があ
ると思えた。
『僕らはあの空の下で』
ミュージカル『テニスの王子様』などで人気の出た若手男優
の共演による青春映画。
ここ数年、この手の男優たちによる学園ものなどの作品を定
期的に観ている感じだが、今回はいわゆるボーイズラヴもの
ではなく、どちらかというと真面な学園ものが展開されてい
た。
物語の舞台は神奈川県三浦市の高校。そこにボストンからの
転校生がやってくる。と言っても彼自身は日本人で、母親の
病気治療に付き添っての一時帰国の間だけの転校だった。そ
してその転校生は、最初に生徒会長に紹介されるのだが…
その生徒会長は漫画家志望でせっせとコンテストにも応募し
ているが、その結果はいつも残念賞。彼の作品には、絵は良
いが物語の構成が駄目という評価が続いていた。
ところがその彼が転校生の名前を聞いて驚く。それは同じコ
ンテストにボストンから応募してくる奴と同じ名前だったの
だ。しかもそいつは、物語の構成は良いが絵が駄目という評
価で残念賞ばかり貰っていた。
という2人が揃えば、後は共作での漫画の創作となって行く
が…そんな中で母親の回復まで期間限定の青春ドラマが展開
される。
出演は『キズモモ』の古川雄大、『虹色の硝子』の細貝圭、
『少年メリケンサック』の永岡卓也、それに本作が映画デビ
ュー作の佐藤永典。他に『赤い糸』などの矢柴俊博らが共演
している。
脚本は『キズモモ』の吉井真奈美。また1人気になる脚本家
の誕生のようだ。共同脚本と監督は助監督出身の平林克理。
本作が初監督作品になるが、助監督作品には『ホテルハイビ
スカス』『誰も知らない』『ゆれる』『僕の彼女はサイボー
グ』などが並んでいる。
僕自身、高校時代は文科系のサークルにいた人間だが、そん
な自分の昔が思い出させるような作品だった。体育会系では
ない、ちょっと温いかも知れないが、そこでも切磋琢磨はあ
る。そんな感じの青春が上手く描かれていた。
しかも上映時間68分の作品なので展開のまだるっこしいとこ
ろは余りないし、基本はイケ面俳優たちによる女性向けの作
品なのだろうが、案外自分にも填ってしまったものだ。
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06月07日(日)
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