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On the Production
by 井口健二
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■フィースト3、ココ・シャネル、呪怨、ARTISANAL LIFE、未来の食卓、バッド・バイオロジー、ラスト・ブラッド(追記)+製作ニュース
ただしこの作品で何かを理解できたかと言うと、あまりその
ようなものではない。片山が仕事を始めた切っ掛けなどは紹
介されるが、それは作品の中でも格好良過ぎると言われるよ
うなもので、そこから何かを得られるものではない。
もちろん片山の仕事への拘わりのようなものは存分に描かれ
ているが、作品のタイトルにartisan=職人と掲げているな
ら、この程度の拘わりは当然のことのようにも思えるし、そ
れが今の若者に欠けているというのは今更の主張だろう。
それに登場人物の紹介字幕がすべてローマ字なのは、海外へ
のプロモーション目的もあってのことかも知れないが、その
色が緑というのは目には優しいが読み取るには苦労の要るも
のだ。まあ読ませるつもりもないのかも知れないが。
さらに本作にはミラノでのファッションショーのシーンなど
も出てくるが、それも状況がはっきりと説明されないので、
それが成功したのかどうかも判らないし、ハリウッドのバイ
ヤーとの取り引きも何がどうなっているのか…
ただまあ、そんなこんながごった交ぜで、この作品から何か
を考えたりするようなものではないが、取り敢えず片山勇を
プロモーションするということではそれなりに目的は達して
いるのかな。少なくとも試写会に集まった長髪の連中には受
けていたようだ。
『未来の食卓』“Nos enfants nous accuseront”
南フランスの村を舞台に、学校や老人向けに行っている村営
給食センターの食材を全てオーガニック(自然食)にすると
いう試みを取材しながら、現状の全世界が直面している食の
危険を訴えた作品。
映画の巻頭で国際会議の模様が紹介され、そこでは「人類史
上初めて、子供の寿命が親のそれを下回る」という報告が発
表されている。その理由は癌の発病による死亡が増えている
ためで、その原因として食物に含まれる有害物質が指摘され
る。
そんな事実を踏まえて、食品をオーガニックにするという試
みが紹介されるものだ。そしてそのオーガニック食材に関し
て、自然農法を実施することの問題点や行政の農業施策、既
存の農業従事者との対立なども描かれる。
効率重視の農薬漬け農業の問題は、すでに除草剤の遺伝子に
もたらす影響など各所で指摘されているところだが、本作で
はさらに広範な農薬の危険性が訴えられている。そこには硫
酸銅なども挙げられていた。
ただ、わざとここに挙げた硫酸銅などは、確かに毒物ではあ
るが元々自然界に存在していたものだし、これを画面の賑わ
せのつもりか、特に危険が指摘される他の人造化学物質など
と同列に掲げている辺りで、この作品の描き方が気になり始
めた。
しかも作品の中では、危険性の具体的な証拠を求められたと
きに、「そんなことは科学雑誌を読めば判る」と言い返され
てしまうなど、いささか感情的な描き方をされているのも作
品の信頼性を損ってしまうものだ。
実際、この種のドキュメンタリーでは主張が如何に正しくて
も、製作者の感情が露骨すぎて観ていて退いてしまうことが
よくある。この作品ではその他にも、農薬散布の様子を殊更
大音量の音響で強調したり、過剰な演出が逆効果に思える部
分も散見された。
中でも、子供たちに危険を訴える歌をコーラスさせるシーン
では、その主張が正しいことであっても、政治的なプロパガ
ンダに子供を引き込む姿の典型のような感じもして、背筋が
寒くなる部分もあった。
もちろん農薬に頼る農法の問題は声を大にして訴えなければ
ならない問題ではあろうが、この作品のように感情的に描か
れては、僕のようにひねくれた根性で観るものには揚げ足を
取られるのが落ちのようにも思えた。
食と農の問題を訴える点では、4月に紹介した『キング・コ
ーン』の方が巧みに作られている感じがしたものだ。
とは言え、食と農の問題は真剣に考えなければいけないこと
はよく理解できたし、作品に登場する村長の主張などには耳
を傾けるべきものも沢山あった。その緊迫感には、多少の恫
喝も許されるのかも知れないとも思えた作品だ。
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05月17日(日)
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