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On the Production
by 井口健二
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■シークレット・ディフェンス、顧客、美しい人、私のなかの8ミリ、非女子図鑑、失われた肌、西のエデン、UWビギンズ、虹色の硝子
穴』の深川栄洋、『着信アリ2』の塚本連平、ゲームソフト
監督の川野浩司、CF監督のオースミユーカという、あまり
女性映画という感じではない顔ぶれが監督しているものだ。
しかし作品は、いずれもテーマ通り見事に枠からはみ出した
女性たちの元気な姿を描いたもので、特に暗いニュースが多
い今の時代には、こんな風に前向きな女性たちの姿は、観て
いて気持ちの良いものばかりだった。
中でも、任侠映画の主演男優オーディションに現れた女優を
片桐はいりが演じる『男の証明』と、仲里依紗が男に振られ
て自殺を思い立った冴えない女性を演じる『死ねない女』は
気に入った作品で、現代が陥っている閉塞感に風穴を開けて
くれるような気もしたものだ。
この他の主演は鳥居みゆき、足立梨花、山崎真実、月船さら
ら、江口のりこ。それぞれ個性的な女優たちが揃っている。
さらに、ミュージシャンのスネオヘアー、アクション俳優の
坂口拓らが共演。
短編集もいろいろ観せて貰っているが、特に近作は、短い中
にも起承転結のある短編としての造りもしっかりとした作品
が多くなっている気がする。以前は著名監督の作品ほど尻切
れトンボだったり無理な作品も多かったが、そういうことは
なくなったようだ。
女性を描く短編集では『女立喰師列伝』が先にあるが、本作
はそれほどの仕掛けを設けることもなくストレートな作品が
揃えられている。それはどちらが面白いというのではなく、
そのどちらもがあっていいという感じのものだ。
こんな感じでこれらのシリーズや、少し前に紹介した「桃ま
つり」のようなシリーズも、これからも続いていって欲しい
と思うものだ。

『失われた肌』“El Pasado”
前回監督作品の『太陽のかけら』を紹介したメキシコ人俳優
ガエル・ガルシア・ベルナルが、1985年『蜘蛛女のキス』で
オスカー監督賞候補にもなったアルゼンチン生まれのブラジ
ル人監督ヘクトール・バベンコと組んだ2007年アルゼンチン
=ブラジル合作映画。
幼馴染みのまま結婚した若い夫婦が12年経って離婚。映画の
中ではその理由は明確にはされないが、次々に別の女とつき
あって行く元夫に対して、元妻は彼のことを忘れることがで
きない。そしてその元妻の引き起こす行動が、元夫の生活を
破壊して行く。
物語は、アラン・パウルスという作家の原作の映画化となっ
ているが、描き方によってはかなりのサスペンススリラーや
ホラーにもなりうる展開のものだ。しかしバベンコ監督が脚
色も手掛けた作品は、登場人物から適切な距離を置いて物語
を冷静に描いている。
特に、主人公の元夫が徐々に打ちのめされて行く展開は、明
らかにホラーそのものであるのだが、それを冷静に撮り切る
監督の力量に驚きすら感じてしまうものだ。これは芸術映画
の極致と言えるものなのだろう。
監督は主人公について語る際に、ドストエフスキーやカミュ
を引き合いに出しているが、確かに『罪と罰』がミステリー
ではないのと同じ位に、この物語はホラーではないものなの
だ。
共演は、アナリア・コウセイロ、モロ・アンギレリ、アナ・
セレンターノ、マルタ・ルボスら、ラテン系の個性的な女優
が揃っている。その配役では、最初にベルナルの主演が決ま
り、その後にベルナルは全ての女優のオーディションに立ち
会って配役に協力したそうだ。
また撮影はアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで行われて
いるが、そのヨーロッパ的な町並は、映画に魅力的な雰囲気
を醸し出している。因に監督は、当初は舞台をブラジルにす
るつもりだったが、雰囲気が合わず、原作通りの舞台に戻し
たのだそうだ。
さらに物語は主人公が翻訳者という設定で、映画ではスペイ
ン語を始め、英語フランス語などが入り混じって聞こえるの
も面白かった。この台詞も、監督は当初ポルトガル語に翻訳
したがリズムが合わなかったとか…。同じ南米の両国だが、
文化面はかなりの違いがあるようだ。

『西のエデン』“Eden à l'Ouest”

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02月28日(土)
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