ID:47635
On the Production
by 井口健二
[460302hit]
■ハンティング・パーティ、受験のシンデレラ、なつかしの庭、丘を越えて、ブレス、ブラックサイト、ゼア・ウィル・ビー…、紀元前1万年
め始めた葉子の周囲には、菊池の運転手の長谷川や、朝鮮貴
族の息子の馬海松らの姿があった。
そして、満州事変へと向かう世情の中で、出版社へは日本刀
を振りかざす暴漢が押し掛ける一方、菊池に連れられて行く
銀座の街や、帝国ホテル、ダンスホールなどの風俗も華やか
さを増していた。
こんな昭和初期の風俗が、「丘を越えて」「アラビアの唄」
「東京行進曲」「君恋し」などの楽曲と共に再現され、さら
に江戸地口や東京言葉などが物語に彩りを添える。
出演は、葉子役に池脇千鶴、菊池寛役に西田敏行、他に西島
秀俊、余貴美子、嶋田久作、石井苗子、峰岸徹らが共演。原
作者の猪瀬直樹と、監督夫人の高橋洋子もゲスト出演してい
る。
風俗の再現も丁寧に行われていたが、台詞には江戸地口もい
ろいろ取り入れられていて、その中では「その手は桑名の焼
き蛤」や「恐れ入谷の鬼子母神」くらいは知っていたものだ
が、「びっくり下谷の広徳寺」とか、「嘘を築地のご門跡」
「そうで有馬の水天宮」などは聞いていて面白かった。
ただ、監督が高橋が奈良出身、主演の池脇が大阪出身という
のがちょっと痛いところで、「ひ」と「し」の発音や、上記
の地口もわざわざ「きちもじん」と言わせるなど気は使われ
ているのだが、やはり違和感があると言うか、台詞がスムー
スに聞こえてこない。
特に、江戸っ子の台詞ということでは、もっとポンポンポン
と威勢よく喋ってもらいところが、どうしても台詞を喋って
いるように聞こえてしまった。それ以外は頑張っていると思
われるのが、よけいに残念にも感じられたところだ。
なお、本作には「この物語はフィクションです」という但し
書きが付くようだが、映画の中で菊池が夏目漱石に言及する
文学論などは面白かった。
『ブレス』“숨”
2002年の『悪い男』や、03年『春夏秋冬そして春』などのキ
ム・ギドク監督の最新作。
ギドク作品は、実は上記の2本しか観ていないが、どちらも
鮮烈な印象を残してくれる作品だった。そして本作では、自
殺願望を持つ死刑囚と、夫に不倫されている芸術家の女を主
人公として、ちょっとファンタスティックとも言える物語が
展開する。
死刑囚が自殺を図ったというニュースがテレビで報道されて
いる。そのニュースを観ている女は塑像家で、家族は音楽家
の夫と幼い娘の3人暮らし。しかし、夫は不倫中らしく、し
ょっちゅう電話を架けている。
そんな生活に不満顔の女だったが、突然、意を決したように
ニュースに出ていた死刑囚のいる刑務所を訪問する。そして
死刑囚の恋人だと言い張った女は、保安課長の計いで面会を
許されるが…
自殺を図る度に救命される。しかし死刑の執行は目前という
矛盾した環境にいる男に対して女がしたことは、男に四季の
想い出を再現してやることだった。そのため彼女は、面会室
の壁一面に貼る風景写真をプリントアウトして、持参したカ
セットのカラオケに合わせて四季の歌を唄って聞かせる。
以前の『春夏秋冬そして春』では、大自然の中で四季の変化
が見事に描かれたが、本作の四季の変化は、これも鮮烈に描
かれているものだ。その他にも、監督の出演や、篆刻のよう
に壁に刻みを入れる同房者の姿など、共通するところは多い
作品だ。
一方、ギドクの最初の作品とされる脚本は『画家と死刑囚』
という題名だそうで、これも気になるところだ。
それにしても鮮烈と言うか、見事なドラマの描かれた作品。
常識では有り得ないような話が素晴らしい現実感を持って表
現される。感動と言うのともちょっと違うが、正しく映画を
観たという満足感を得られる作品だ。
出演は、死刑囚役に台湾スターのチャン・チェン。韓国映画
に台湾人は言葉の問題があるが、台詞無しの難しい役を見事
に演じている。女性役はギドク作品には常連のチア。他に、
監督の前作にも出ていたハ・ジョンウと、『多細胞少女』な
どのカン・イニョンらが共演している。
『ブラックサイト』“Untraceable”
[5]続きを読む
03月02日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る