ID:47635
On the Production
by 井口健二
[460302hit]

■裸足のギボン、デッド・サイレンス、ビルマ/パゴダの影で、窯焚、ジェリーフィッシュ、軍鶏、死神の精度、靖国
を指し、中でも信楽は、人工的な釉薬を一切使用せず、高温
の窯で生地そのものを熔かし、そこに炎の中を舞う薪の灰が
付着して自然の釉が施されるのだそうだ。
このため窯は長時間に渡って高温に保たれる必要があり、そ
の間の8〜10日間は不眠不休で昼夜7〜8分おきに薪を焼べ
続けなければならない。その過酷な作業(窯焚)がお互いの
信頼を生み、青年の心を開いて行くことになる。
とだけ書くと根性系の物語のように見えてしまうが、実は、
藤竜也が演じる陶芸家の酒や女にも奔放な生活ぶりが青年に
いろいろな影響を与えて行くもので、その上、藤がほとんど
のせりふを英語で、含蓄のある言葉を吐き続ける。
そんな日本文化に根差した物語が、日本人ではない監督の視
点から描かれる。なおガニオンは、本作の脚本と編集も手掛
けているもので、従って極めて個人的な作品ではあるが、そ
の視点は普遍的なものに感じられた。
信楽焼は自然釉でもあることから、一見しただけではあまり
美しいとは言えない。しかしじっと見つめているとその中か
ら美が見えてくる。そんな信楽焼の魅力も、映像的に見事に
表現されていた。そしてそれが物語にもマッチしていた。
藤の他の出演者は、カナダ人のマシュー・スマイリー、東京
育ちで、2003年の『ロスト・イン・トランスレーション』の
他、「鉄拳」などのヴィデオゲームで声の出演をしているリ
ーソル・ウィルカースン、それに吉行和子、渡辺奈穂。
映画の大半は、叔父と甥の2人の会話シーンになるもので、
その間の台詞はほとんどが英語。藤竜也の訥々とした英語が
不思議な味を出していた。

『ジェリーフィッシュ』“Meduzot”
2007年のカンヌ映画祭で新人監督賞を受賞したイスラエル映
画。テルアビブの街を背景に、3つの物語で構成される。
その1つ目は、結婚式場のウェイトレスをしてるパディアの
物語。自分の気持ちを人に伝えることが苦手で、恋人とも最
近別れたばかり。そんな彼女が海岸で浮き輪を付けた迷子の
少女を保護する。
2つ目は、新婚カップルの物語。式場でのトラブルで花嫁が
足を捻挫してしまい、カリブへの新婚旅行をあきらめて海岸
のホテルに宿泊する。しかし希望したスィートには先客がい
て、充てがわれた部屋は不満だらけ。
3つ目は、フィリピンから来た介護ヘルパーの女性と老女の
物語。幼い息子を祖国に残して働く女性は子供を抱きしめら
れないことに苦しみ、成長した娘から疎まれる老女は娘との
交流のきっかけを得られない。
そんな人生に迷い、海に漂うクラゲのような状況にある人々
が、人生を見つめ直し、新たな希望に向かって行く姿が描か
れる。因に、原題もクラゲを意味するヘブライ語のアルファ
ベット表記のようだ。
いくつかの物語が交錯しながら同時に進行して行く形態は、
最近の映画の流行りのようでもあるが、本作でも多分2、3
日間の話が巧みに描かれている。
作品は、実は互いの物語が時系列ではなかったというような
トリックもなく、物語はストレートに展開する。その善し悪
しは観客の判断になるが、本作のような素朴な物語ではあま
りトリッキーなことはして欲しくないもので、その意味では
満足できる作品だった。
ヘブライ語、英語に、ドイツ語なども飛び交い、ホロコース
トやシリア人との争いなどといった台詞も登場する本作は、
イスラエルらしい映画とも言えるが、描かれている内容は普
遍的なものだ。
共同監督のエドガー・ケレットとシーラ・ゲフェンは、実生
活でもパートナーの人気作家と劇作家だそうで、その視点の
確かさも映画の完成度を高めている。また撮影は、2001年の
フランス映画『まぼろし』などのアントワーヌ・エベルレが
手掛けており、こちらはちょっとトリッキーなところもある
映像も見事だった。

『軍鶏(Shamo)』“軍雞”  
2006年の東京国際映画祭コンペティション部門に出品された
『ドッグ・バイト・ドッグ』ソイ・チェン監督による新作。
『スケバン刑事』などの脚本家・橋本以蔵が原作を手掛けた

[5]続きを読む

01月27日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る