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On the Production
by 井口健二
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■シルク、ボビーZ、パルス、ダーウィン・アワード、ゼロ時間の謎、フローズン・タイム、中国の植物学者の娘たち
囲気も作りながら描いて行く。
映画のプロローグは、恐らく実在の賞の受賞者と思われる有
り得ない死に方のオンパレードで、人間ってこうもバカなの
かという実例が再現される。
そして主人公は、最初はサンフランシスコ市警のプロファイ
ラーとして有能だったが、生来の血液恐怖症で殺人現場には
立ち会えず、いろいろあって警察を馘になった男。
その男が、「ダーウィン賞」に取り付かれて人の死に方の研
究を続けていたことから、保険会社への再就職を試みる。彼
の主張によれば、バカげた死亡原因を的確に突き止められれ
ば、保険会社は年間2200万ドルの保険金を支払わなくて済む
というのだ。
そこで、その理論を証明する試用期間として、保険会社の女
性調査員と共に全米の謎の死亡案件の調査に向かうのだが…
ここで登場する死亡原因というのが、これらも恐らくは事実
に基づいているのだろうが、まあ観客としては笑うしかない
ものばかりとなる。
テーマの関係上、それぞれのエピソードの結末では人が必ず
死ぬ訳で、コメディとしてはかなりブラックなものだ。でも
まあ、呆れながらも笑えるのは、映画自体がかなりスマート
に作られているという点にもありそうだ。
脚本監督は、サンダンス映画祭でコンペティションに2度選
出されたフィン・タイラー。その実績は伊達ではないと言う
ところだ。実際映画には、そう来たか…と思わせるシーンも
多々あったものだ。
その脚本に魅かれて上の2人も参加している訳だが、さらに
共演者には、ジュリエット・ルイス、デイヴィッド・アーク
ェット、クリス・ペンなど錚々たる顔ぶれが並ぶ。また、人
気ロックバンド=メタリカのライヴシーンや本人たちのカメ
オ出演もあるなど、盛り沢山な内容で楽しめる作品だ。

『ゼロ時間の謎』“L'Huere Zero”
アガサ・クリスティが1944年に発表し、本人と江戸川乱歩、
それにファンクラブの3者が揃ってクリスティのベスト作品
の1本に選んでいるという名作『ゼロ時間へ』を、物語の舞
台をブルゴーニュ地方に移して製作されたフランス映画。
監督は、2004年に『親指のうずき』の映画化でクリスティ作
品に実績を持つパスカル・トマ。海辺の崖の上に建つ旧家の
別荘を舞台に、集まったいろいろな思惑を持つ男女が愛憎劇
の末に引き起こす殺人事件の謎を、豪華な雰囲気の中で見事
に描き上げている。
僕自身、クリスティの原作はあまり読んでいないのだが、映
画化作品の印象などからすると、ちょっとクラシックな感じ
に描かれた本作は、過去の名作の雰囲気を忠実に再現してい
ると言えそうだ。特に登場人物たちの描き方には落ち着きが
あって好ましかった。
その出演者は、『僕を葬る』のメルビル・プポー、その妻役
にジョニー・アリディの娘のローラ・スメット、そして前妻
役にカトリーヌ・ドヌーヴとマルチェロ・マストロヤンニの
娘のキアラ・マストロヤンニという若手が中心。特にスメッ
トの演技が見事だった。
この若手に加えてダニエル・ダリューが重厚な演技を披露し
ている。因に、ダリューとマストロヤンニは、先月紹介した
アニメーション『ペルセポリス』に続いての共演だ。
犯罪のトリックは正直に言ってかなり強引に感じられる。そ
れに謎解きも、1時間50分の上映時間の中では多少無理があ
るようにも感じられた。
しかし、それは原作物だからその通りでしかないのだろう。
この辺は原作の読者なら納得できるのかも知れないが、残念
ながら僕は読者ではないということだ。ただし、物語の雰囲
気は楽しめたし、僕にとってはそれで充分だったとも言える
作品だ。
なおプレス資料に寄せられたエッセイで、市川崑監督による
日本を舞台にしたクリスティの映画化を提案している人がい
たが、市川監督が脚本を書くときのペンネームが久里子亭で
あることは押さえておいて欲しかったところだ。
それから、プレス資料のクリスティの年譜では原作の完成が
1965年となっているが、同じ資料の作品リストでは1944年発

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11月10日(土)
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