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On the Production
by 井口健二
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■すんドめ、ユゴ、アニー・リーボヴィッツ、アース、ペルセポリス、眠れる美女、ぜんぶフィデルのせい、俺たちフィギュアスケーター
因に本作は、あらかじめ作られた構成に沿ってスタッフが世
界各地に飛び、5年間、延べ2000日の撮影によって製作され
たもので、『北極のナヌー』がアーカイヴの映像を編集して
作られているのとは、根本的に手数の掛け方が違っている。
そしてその撮影は、全編をHDのヴィデオシステムで統一さ
れており、画質の安定性や均一さなどでは、鑑賞にも違和感
を生じることが少なく、快適に観ることができた。
さらに見事なのは、自然の移り変わりをディジタル処理で一
気に見せるなどのVFXの素晴らしさ。もちろん慎重に観て
いればその繋ぎは観えてくるものだが、雪に埋もれたランド
スケープがあっと言う間に花に満ち、新緑から紅葉に変化し
ていく様子には、思わず息を呑まされた。そんなテクニック
も随所に見せながら、地球の自然の今が描かれる。
ただし、シネラマや70mmの大画面を知っている自分にとって
は、ヴィスタサイズのHDはどうしても横への広がりに物足
りなさも感じられた。今の映画ファンには理解できないかも
知れないが、シネラマの大画面は、このような題材を写すの
にこそ適していたものだ。
BBCの製作ではHDは当然だが、できることなら上下を多
少切ってでも70mmフィルムに変換し、湾曲スクリーンに包ま
れてこの映像に浸りたいという思いにも駆られた。
なお、オリジナルのナレーションはパトリック・スチュアー
トが担当している。

『ペルセポリス』“persepolis”
題名はギリシャ語でペルシャの都市という意味だそうだ。
「リベラシオン」誌や「ニューヨーカー」誌などの誌面も飾
っているというイラン出身、フランス在住の女性イラストレ
ーター=マルジャン・サラトピが、2000年から発表している
半自伝的なグラフィックノヴェルを、原作者自身の脚本、共
同監督によりアニメーション化した作品。
主人公の少女マルジは、ペルシャ=イランに生まれ育ち、パ
ーレヴィ国王時代からイスラム原理革命までを体験する。そ
して、革命後は14歳で単身ウィーンに留学、そこでもいろい
ろな体験をした後に一時帰国。革命政権下での一般市民の生
活も体験する。
物語の中では、パーレヴィ時代には学校での教えの通りに、
シャーは神に指名されたと信じて崇拝していた偶像が革命で
打ち砕かれたり、また革命政権下の生活では、闇で売買され
ている西欧音楽のカセットや酒の取り締まりなどが、皮肉込
めて描かれている。
一方、ウィーン留学中は1980年代の若者カルチャーの洗礼を
受け、その風俗が多少ノスタルジックに描かれたりもしてお
り、その辺りのノスタルジーや、革命政権下のイランの市民
生活がある意味生の声で語られる点など、いろいろな面での
興味の引かれる作品だ。
ただ、原作に忠実すぎるのか、本来の描かれている物語は起
伏に富んだものであるはずなのに、映像化された作品に起伏
があまり感じられない。現象だけを綴っているものだから平
板になるのは仕方はない面もあるが、もう少し何か一工夫欲
しかった感じはした。
なお声の出演者では、マルジ役をマルチェロ・マストロヤン
ニとカトリーヌ・ドヌーヴの娘のキアラ・マストロヤンニが
演じ、母親役のドヌーヴと母娘共演を果たしている。また祖
母役を、『ロシュホールの恋人たち』などでドヌーヴの母親
役を5度も演じているダニエル・ダリューが演じているのも
話題を呼びそうだ。
因に、マルジャン・サラトピは、6月に紹介した映画『オフ
サイド・ガールズ』のオリジナルポスターのデザインも担当
していたそうだ。

『眠れる美女』“House of the Sleeping Beauties”(ドイ
ツ映画)
川端康成が1961年、62歳の時に発表した原作を、『4分間の
ピアニスト』などにも出演の俳優で、監督経験もあるヴァデ
ム・グロウナが、脚色、監督、主演で映画化した作品。
ベルリンの街角に立つその家には老人たちが通って行く。女
主人の許可なしには入れないその家の中では、若い女性が深
い眠りに落ちたまま一糸纏わぬ姿で提供される。老人たちは

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10月20日(土)
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