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On the Production
by 井口健二
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■レディ・チャタレー、レンブラントの夜警、バイオハザードV、迷子の警察音楽隊、カルラのリスト、アヴリルの恋
は続きの示唆もたっぷりで、そこにはニヤリとする展開もあ
るようだ。
『迷子の警察音楽隊』(イスラエル映画)
「昔、エジプトの警察音楽隊がイスラエルにやって来たこと
がある。でもそんなことは誰も覚えていない。それほど些細
なことだったんだ」というようなテロップで始まる物語。
些細なことと言われれば確かにその通りだろう。でもその些
細なことが、実はすごく大切なことなのだということを気付
かさせてくれる、そんな感じの作品だ。
主人公は、エジプト・アレキサンドリア市警の音楽隊。物語
は、彼らが演奏旅行に招かれてイスラエルの空港に到着した
ところから始まる。ところが、何かの手違いがあったらしく
到着した空港には出迎えがいない。
ここで大使館にでも連絡すれば良かったのだが、独立心の高
い彼らは手紙に書かれた地名を目指して路線バスで移動を開
始。ところが、これまた何かの間違いで、着いたところは高
層アパートの建ち並ぶ団地の中。しかも寂れた団地に人影は
ほとんどない。
途方に暮れた彼らは、そこに建つ一軒の食堂に立ち寄るが…
エジプトはアラブ諸国の中では比較的イスラエルに寛容のよ
うだが、それでもシナイ半島を巡っての戦いは、まだ記憶に
も残っているところだ。実際、映画の中にも当時の写真が壁
に貼ってあるのが写ったりもする。
そんな状況の許で、国家間は和平しても、民間では真の交流
は有り得るのか、そんな疑問を感じながらも、物語は実に何
でもないことから、自然と交流が進んで行く様子を描いて行
く。
この物語が実話に基づいているかどうかは判らない。元にな
る実話があったとしても、人の記憶にも残らないほどの些細
な出来事だったのかも知れない。そしてそれは、その後に特
別な成果や結果が残るようなものでもなかったのかも知れな
い。
でも、民間人同士が何も強制されずに自然と近づいて行く。
勿論そこには、個人の寛容も重要なポイントにはなるが、そ
んな本当に些細な民間交流が描かれる。そしてこういうこと
が積み重なれば、きっと何か素晴らしいことが起こるに違い
ない、そんな気分にもさせてくれた。
なお、本作は今年の東京国際映画祭のコンペティション部門
に出品される。
『カルラのリスト』“La Liste de Carla”
オランダハーグに置かれた国際刑事裁判所(ICC)。今年
10月1日、日本はその105カ国目の加盟国となる。
犯罪者は、本来その所属する国の法律によって裁かれる。し
かし国家間の紛争における犯罪者を裁く法律は存在しない。
ICCは、それを人道的な見地から裁こうとするものだ。
元はと言えば、東京裁判やニュルンベルグ裁判が戦勝国が敗
戦国を裁くという形式であったことを反省し、より国際的、
普遍的な見地でこれらの犯罪者を裁くための常設機関の設置
が求められた。それがICCで、裁判所は2002年に設置され
た。
一方、1993年に国連によって旧ユーゴ国際刑事法廷(ICT
Y)が設置され、1999年にその検事となったカルラ・デル・
ポンテは、以来10年近くに亘ってその犯罪者を追っている。
しかし、最初は10人以上いた指名手配のリストが現在は6人
にまで減ってはいても、未だ最重要人物であるカラジッチと
ムラディッチの逮捕には至っていない。
この作品は、その旧ユーゴの戦争犯罪人を追うカルラに密着
し、その活動する姿を描いたドキュメンタリーだ。
作品の中では、カルラがセルビアやモンテネグロの首脳と会
談したり、アメリカ国務省や国防総省、さらにEUや国連安
保理にも乗り込んで、協力を要請したり、圧力掛けたりして
犯罪者を追い続ける姿が描かれる。
しかし現実には、元々国家の有力者であった犯罪者たちは、
その後に設立された政府にも影響力を残しており、国家が彼
らを匿っている可能性も高いようだ。そんな状況の中で、そ
れこそ宥めたり賺したりしながら、犯罪者を追って行く様子
を描いている。
ICCへの日本の加盟が遅れたのは、国家国民の無関心が最
大の理由だと言うことだが、この作品を見ていると、無関心
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09月30日(日)
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