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On the Production
by 井口健二
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■未来予想図、ロンリーハート、僕のピアノコンチェルト、夜顔、僕がいない場所、めがね、インベージョン、Mayu
オリジナルでの2人の関係やその他の出来事が踏襲されて、
微妙な男女の物語が展開して行く。
僕自身、オリジナルはブニュエルの特集か何かで見たはずだ
が、細かいことはあまり覚えていない。でもまあ、夫には貞
淑だが、それでも欲望に抗し切れない女性が昼間だけの娼婦
となり、そこに夫の友人が現れて…という程度のことを知っ
ていれば充分だろう。
そして物語は、オリジナルで生じた謎が核となって行くが、
所詮この作品はオリジナルを壊す訳には行かないもので、そ
の辺は微妙な扱いとなっている。でも本作は、それらを超越
して男女の物語が展開するものだ。
ドヌーヴが出演しなかったセヴリーヌ役には、ブニュエルの
『ブルジョワジーの密かな愉しみ』にも出ているベテランの
ビュル・オジェが扮している。
この状況では、女は逢いたくないだろうし、男には恋慕の情
が再燃する。まあ自分も男としては理解できてしまうところ
だ。上映時間70分の作品は、映画ファンへのちょっとした贈
り物という感じの作品だ。

『僕がいない場所』“Jestem”
ポーランド在住の女性監督ドロタ・ケンジェルザヴスカによ
る2005年の作品。
主人公の少年は、母子家庭に育ち、母親を愛してはいるが、
母親の奔放な生き方にはついていけなくなっている。そんな
少年は、1人で川辺に係留された廃船に住み、空缶や鉄屑を
集めては現金を得て生活を続けている。そして街の人々は、
少年を哀れに思い援助の手を差し伸べようとするが、少年は
施しを受けようとはしない。
しかしある日のこと、少年の暮らしている廃船を1人の少女
が訪れる。彼女は船の係留場所の近くに建つ屋敷の次女だっ
た。しかも少年より年下と思われる少女は酒に酔っていた。
彼女は美しい容姿の姉に劣等感を抱き、親にも疎外感を持っ
て、そんな気持ちを酒で紛らせていたのだ。そんな彼女に、
少年はともに街を逃げ出そうと話をするが…
冒頭で、孤児院に収容された少年が身元を聞かれるが、頑と
して答えないというシーンが登場する。そこで発せられるの
が原題のjestem、英語ではI amという意味のようだ。少年が
身元を明かさないのは、母親の元に戻されるのが嫌なのかも
知れない。でも彼は母親への愛情を失っている訳ではない。
そんな微妙な心の動きが描かれる。
主演の少年と彼の許を訪れる少女の配役は、ポーランド全土
から探し出されたそうだが、特に当時は養護施設にいたとい
う少女役のアギニェシカ・ナゴジツカは、立場は逆だが『禁
じられた遊び』でブリジット・フォッセーが演じた少女を思
い出させて愛しくなった。
しかも彼女は、最初の登場シーンでは酒に酔っているところ
から、徐々に立ち直って行く姿を演じているが、その演技も
的確だったように思える。もちろんそこには監督の指導もあ
るのだろうが、その演技力は素晴らしいものに感じられた。
前回紹介の『この道は母へとつづく』が母親の許へ向かうの
に対して、母親との決別を模索する本作はちょうど逆の立場
の作品に見えるが、実はどちらも母親への絶ちがたい愛情を
描いている点では共通しているものだ。しかしこの作品の母
親は余りにも無責任で、親の立場を描けば描くほどこういう
内容になってしまうのは悲しい話だ。
なお、撮影は監督の夫でテレビ版『デューン』なども手掛け
るアーサー・ラインハルトが担当。また、音楽をマイクル・
ナイマンが手掛けているのも話題になりそうだ。

『めがね』
去年1月に紹介した『かもめ食堂』の荻上直子監督、小林聡
美主演、もたいまさこ共演による新作。
何処とは知れない、多分南の島。そこのとある一角で暮らす
人たちに「来た」という予感が走る。そして島の空港に小型
旅客機が着陸し、そこから2人の女性が降り立つ。その内の
年配の女性は真っ直ぐ海岸へ向かい。用意されていた小屋の
前で人々と挨拶を交わす。
もう1人は、何か都会を逃げ出してきたような雰囲気の女性
で、彼女は旅行鞄を引き摺ってその小屋を通り過ぎ、とある

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09月10日(月)
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