ID:47635
On the Production
by 井口健二
[460310hit]
■ヘアスプレー、ある愛の風景、サーフズ・アップ、チャプター27、風の外側、この道は母へとつづく、FLYBOYS
ェフ・ブリッジスらが共演。日本語版は、小栗旬、山田優、
マイク真木らが当てている。
『チャプター27』“Chapter 27”
1980年12月8日。ニューヨークに建つダコタハウスの入り口
で、ジョン・レノンを殺害した男=マーク・デイヴィッド・
チャップマン。その犯行に至るまでの3日間を追った作品。
この日のことは、自分ぐらいの年代の人には鮮烈な思い出に
なっている人も多いようだ。僕自身は飲み屋か何かで聞かさ
れた記憶があるが、自分がビートルズの熱烈なファンだった
訳でもないので、その時の気持ちなどは余り定かではない。
でもその時の状況をそれなりに覚えているのは、自分なりに
もそれだけ大きな出来事だったのだろう。
その犯人に関しては、最近、保釈を認めるか否かの問題も話
題になったところだが、人物像など全く知らなかった。この
映画は、そうした背景などを知る上では、興味深くも見られ
たものだ。もちろん作品はドラマであって、真実だけを伝え
るものではないが。
題名は、J・D・サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえ
て』が全26章であることに由来している。犯人はこの小説を
愛読し、その主人公の第27章を演じた…というのが物語の骨
子となるものだ。
犯人は、生活の困窮などによって生じた社会に対する憎悪の
矛先を、華々しく活躍を続けるレノンに向けている。そして
サリンジャーの小説の主人公を自分に照らし合わせ、その主
人公の行動をなぞっていった。
正直に言って、『ライ麦畑…』も読んでいなかったので、青
春文学の代表とも言われる作品がこんなことに利用されると
は…とも思ったところだ。小説を勝手に解釈するのは、読者
の自由でもあるが、歪んだ解釈。特に最近はそういう傾向が
強く見られるように思えるのも、気になったところだ。
主演のジャレッド・レトは、実は後日『ロンリーハート』と
いう作品も紹介するが、本作の撮影には30kg体重を増やして
臨んだという、その変貌ぶりが見事だ。また、共演者では、
最近いろいろお騒がせのリンジー・ローハンが雰囲気のある
演技を見せている。
なお撮影は、実際のダコタハウスの前で行われており、『バ
ニラスカイ』に一瞬登場するのを除けば、この場所での本格
的な映画撮影は、映画の中でも言及されている『ローズマリ
ーの赤ちゃん』以来ではないかということだ。
『風の外側』
海外の映画祭での受賞も連続している奥田英二監督の新作。
巻頭、チンピラが女子高生に絡むシーンが登場する。ああ、
また日本映画の典型みたいなシーンだなあと思いつつも、そ
の直後の展開で、何となく掴まれてしまった。
昭和30年代、40年代の青春映画の雰囲気かな。でもそれを、
1950年生まれの奥田監督は、ただ真似ているのではなく、自
分のものにしてこの作品を作り上げている。しかも現代を時
代背景にして、そこに違和感なくこの物語を描いたのは見事
と言えるものだ。
主人公は、名門女子高校に通う将来はオペラ歌手になること
を夢見る少女。そんな少女が冒頭の出来事を切っ掛けに、や
くざの男と交流を深めて行く。対する男は、素人の女性に手
を出してはいけないと判りつつも、その少女の眼差しから逃
れることができない。
一方、その男は夢も希望も失せたこの世の中で、闇金融の取
り立てなどで最底辺の生活を送っていたが、もっと実入りの
良い仕事の話が上層部から下りてくる。それは、彼がそれだ
けには手を出さないと誓っていた仕事だったが…
そして物語は、全く別の局面を見せ始める。
やくざと清純な少女の恋愛というのは、定番中の定番という
ところだろう。それを臆目もなくやっている作品だ。でもこ
の映画は、それなりに捻りもあるし、多分それより、演出の
巧みさに魅かれて、結局最後まで見さされてしまったという
感じもしたものだ。
奥田監督の作品は、実績のある俳優出身にしては浮ついたと
ころが無く、しっかりとしたテクニックも感じられて、どの
作品も観ていて気持ちが良い。本作も、そうした意味では安
心して観ていられたものだ。
[5]続きを読む
09月09日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る