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On the Production
by 井口健二
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■サッド ヴァケイション、アフター・ウェディング、レター、ジャンゴ、北京の恋、カタコンベ、ナンバー23
日本ムードを強調する反面、その裏にはマカロニウェスタン
の名作を踏まえる。この辺りには、三池監督の強かな計算を
感じさせる。これなら、特別映像の時に感じた危惧はかなり
緩和されるとも言えるし、特にヴェネチア映画祭には好適と
言えそうだ。
ただし映画のプロローグは、「新春スター隠し芸」の英語劇
を思わせるかなりトリッキーな始まり方で、ここで乗り損な
うとしばらくは辛くなる。多分この感覚は海外の観客には生
じないと思うが、日本人にはトラウマになりそうだ。
しかし、ここは特別出演のタランティン・クェンティーノが
うまく救っていて、本編はそれなりにちゃんとしたものにな
っている。その後も何度かあるタランティーノの登場シーン
は、それぞれが良いタイミングで、映画のバランスを良く整
えている感じがした。
記者会見では、香川照之が英語に苦労したと言っていたが、
僕は一番様になっていたようにも感じた。ダイアローグコー
チの発音を正確に真似たのだろうが、さすがプロの役者とい
うのは凄いと思わせてくれた。ネイティヴの人たちがどう聞
くかは判らないが…
ただ、彼の演じた二重人格という設定が、今の時期にはスメ
アゴルを思い出させてしまうのが、ちょっともったいなくも
感じられたものだ。
後は、ヴェネチアでどのような評価が下されるか。結果が楽
しみだ。

『北京の恋−四郎探母』“秋雨”
京劇を背景に、日中の若者の交流を描いた作品。
邦題に添えられている「四郎探母」は京劇の名作の一つで、
敵国に捕えられ身分を隠して生き長らえた男が、母親への思
慕に耐え切れずその国の王女でもある妻に自分の出自を打ち
明ける。そこで2人の愛の強さと歴史の重みが試されるとい
うもののようだ。
そんな物語をクライマックスに据えて、日中間の戦争の歴史
の重みの下で、京劇ファンの若い日本人女性と、新進の京劇
役者の中国人青年の恋愛が描かれる。
北京京劇院の元俳優・河は、北京の鉄道駅でネットで知り合
った橋社長を出迎えていた。しかしそこに現れたのは若い日
本人女性・梔子。京劇ファンの彼女は、祖父のネットの友人
が京劇関係者であることを知り、それだけを頼りに来てしま
ったのだ。
そんな梔子が河の家に住み込み、直弟子の徐や河の息子の鳴
と共に京劇を学んで行くが…
物語の中で旧暦大晦日の夜に4人が餃子を作りながら、「四
郎探母」の一節を掛け合いで歌うシーンがある。ここでは、
元女形の河と徐、梔子が交代で王女を演じ、鳴は四郎を演じ
るもので、歌唱は吹き替えだとは思うが、そのシーンは圧巻
だった。
ところがその直後に物語は暗転する。ここから後に語られる
事柄は、日本人としては真実であって欲しくないものだが、
真実であるかどうかは別として、中国の人たちの心の底にこ
ういう物語が真実として伝えられていることは知っておくべ
きことだろう。
上海の大虐殺もそうだが、日本の政治家がいくら事実ではな
いと高圧的に言い張っても、一種の都市伝説のようにもなっ
ている中国の人たちを説得できるものではない。それなら、
それが事実であるかどうかは別にして、真心からの交流を深
めることの必要性をこの映画は訴えているものだ。
そうとは採らない人がいることも、予想はされるが…
梔子役は、東京出身で外国人として初めて北京電影学院に合
格したという前田知恵。現在は帰国してNHK中国語講座な
どにも出演中のようだが、2004年製作のこの作品では初々し
く役を演じている。
脚本は、『北京ヴァイオリン』のシュエ・シャオルー、監督
のスン・ティエはテレビでのヒットメーカーだそうだ。

『カタコンベ』“Catacombs”
『SAW』シリーズなどを手掛けるツイステッド・ピクチャ
ーズ製作のサイコ・ハラスメント・スリラー。パリに実在す
る地下墓地を舞台に、迷路のようなその場所に迷い込んだア
メリカ人女性の運命を描く。
主人公のヴィクトリアは、何事にも積極的に立ち向かって行
けない内気な女性。そんな彼女に、ソルボンヌ大学に通う姉

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08月31日(金)
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