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On the Production
by 井口健二
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■自虐の詩、ロケットマン、ローグ・アサシン、4分間のピアニスト、クワイエットルームにようこそ、さらばベルリン、幸せのレシピ、シッコ
日本は、戦犯の孫が祖父を神に祀れと主張して選挙に出るよ
うな国だが、ドイツにおける戦争犯罪の重さは、常に被害者
意識の日本人とはかなり違うものだ。その女教師の罪の重さ
を、そしてそれが彼女の行動の原動力になっていることを、
本作は見事に描き出す。
しかも、その行動がかなり尋常でないことも、本作の魅力に
なっているところだ。その傾向は、映画の中で演奏される音
楽にも共通に現わされていて、クラシック音楽が主題の作品
の巻頭に、ハードロックが鳴り響いた辺りから見事に作品が
作られて行く。
この感覚が映画全編にリアリティを与え、最後の感動へと導
く構成も見事に感じられた。
少女役は、本作までほぼ無名の新人だったハンナー・ヘルシ
ュプルング、老女教師役は、『ラン・ローラ・ラン』などの
モニカ・ブライブトロイ。本作では2人揃ってドイツ映画ア
カデミーの主演女優賞にノミネートされ、ブライブトロイが
受賞しているものだ。
また、ピアノ演奏には2人の日本人女性ピアニストが参加し
ており、劇中のシューベルトの楽曲は木吉佐和美、そして、
最後の圧倒的な演奏は白木加絵という人が担当している。特
に最後の曲は、それだけのためにもう一度映画が観たくなる
ほどのものだった。
『クワイエットルームにようこそ』
劇団「大人計画」の主宰松尾スズキが、2006年芥川賞候補に
もなった自らの原作を映画化した長編監督第2作。目覚めた
ら精神病院の閉鎖病棟に収容されていた女性ライターの、退
院するまでの14日間を描く。
主人公は、駆け出しの女性ライター。依頼された800字のエ
ッセーが締め切りの日になっても仕上がらず、アルコールと
睡眠薬の過剰摂取で昏睡状態となる。そして自殺の可能性あ
りとの診断で、閉鎖病棟の保護室に5点拘束されてしまう。
自分も物書きの端っこにいる人間だから、主人公の追い込ま
れた心情もよく判るし、他に個人的な体験もあって、比較的
重く感じる作品だった。
監督自身が舞台挨拶で、思いのほかヘヴィな作品になったと
言っていたが、この題材を真摯に捉えれば、重くなるのは仕
方がない。でもその重さを、重苦しくは感じさせずに、しか
も前向きに描いている点では気持ち良く観られたものだ。
女子精神病棟ということでは、1999年に公開された“Girl,
Interrupted”(十七歳のカルテ)が思い出されるが、共通
するところもあり、しないところもあって、それぞれが現代
の病を丁寧に描いているように思える。
それは、決して精神病と呼べるようなものではないのだが、
何かの(誰かの)都合で精神病として括ってしまえば都合が
良い、そんな現代人なら誰でも陥ってしまう可能性のある状
況の物語だ。
出演は、主人公に内田有紀、摂食障害患者に蒼井優、過食症
患者に大竹しのぶ、看護婦にりょう、主人公の夫に宮藤官九
郎、その子分に妻夫木聡。他に、映画監督の塚本晋也、庵野
秀明、お笑いのハリセンボン、さらに俵万智、漫画家の河井
克夫、しりあがり寿など、出演者も普通と普通でない顔ぶれ
が揃っている。
作品は、先に重いと書いてしまったが、それは取り様で、笑
いの要素はコメディ映画の水準以上のものになっている。そ
れもかなりスマートな笑いで、苦笑というようなものではな
いから、映画としては気持ち良く観られたものだ。
でも、現代人ならどこかにぐさりと来るところもある作品。
現代人が、自分自身を確認するために観たい作品と言えるか
も知れない。
『さらば、ベルリン』“The Good German”
ヨーロッパ戦線は終結したが、まだ日本との闘いはまだ終っ
ていない。そして終戦に向けてのポツダム会議が開かれる。
そんな時期のベルリンを描いたドラマ。そこでは、英米ソ連
の軍隊が地域を仕切って占領管理をしている。
その中で1人の女性を巡って、各国の駆け引きが行われる。
スティーヴン・ソダーバーグ監督とジョージ・クルーニー、
ケイト・ブランシェット、トビー・マクガイアが描き出す終
戦秘話。
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08月20日(月)
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