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On the Production
by 井口健二
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■卒業写真、ラッキー・ユー、恋愛マニュアル、デス・オブ・ア・ダイナスティ、陸に上がった軍艦、サイドカーに犬、オフサイド・ガールズ
手法のシーンもありはするが、全体にそれが徹底されている
ものではない。
それにこの作品では、全体が一種のフェイクになっていて、
それも含めてモキュメンタリーになっていたら見事な感じも
するが、物語的にそれが難しかった部分もありそうだ。
自分自身をコメディアンに演じさせるという点では、一種の
セルフパロディかなという感じもするし、実際に映画の中で
は実生活のパロディになっていると思われるシーンも数多く
登場している。
つまり本作はHip-Hop業界の裏側をパロディ化したもので、
その意味での興味も引かれるし、それだけで充分に面白い作
品になっている。それにいろいろなアーチストの本人が登場
するのは、ファンの人には堪らないところだろう。
また本作は、デヴォン青木のデビュー作としても宣伝される
予定だが、主人公たちに絡んで物語の鍵となる役で、役名も
あるそこそこのキャラクターを演じている。当時の彼女はま
だモデル業が中心の頃と思われるが、その後の活躍が予感で
きるものだった。
その他にも、ロバート・デニーロの義理の娘など、多彩な出
演者が出ているようだ。
因に映画では、最後にダッシュとジェイ・Z本人が登場して
仲の良いことを強調しているが、現在の2人は袂を分かって
しまったそうだ。

『陸に上がった軍艦』
94歳の映画監督新藤兼人が、自らの体験に基づいて軍隊生活
を描いた作品。
新藤は、原案、脚本の執筆と共に証言者として画面にも登場
し、その証言の間に、新藤脚本による再現ドラマが描かれる
構成となっている。監督は、新藤作品も手掛けるフリー助監
督の山本保博が担当した。
新藤が召集されたのは1944年3月28日。すでに脚本家として
松竹大船撮影所で仕事を始めていた新藤は当時32歳。戦争末
期になって30代の男子にも召集が掛けられるようになり、そ
の一員となってしまったものだ。
最初の任地は広島県の呉。そこで帝国海軍二等水兵となり、
その後、奈良天理、兵庫宝塚へと移動するが、その間に最初
100人いた同期兵はくじ引きで戦地へと送り出され、輸送船
の撃沈などの不運もあって、終戦まで生き延びたのは6人だ
けだったという。
しかし、内地に残って生き延びた彼らも、人を人と思わない
過酷な軍隊生活で、心身共にぼろぼろにされて行く。そんな
理不尽な軍隊生活が、再現ドラマではユーモアというより、
馬鹿々々しさを一杯に描かれて行くものだ。
実際、入隊したのは海軍であるから本来なら軍艦に乗るはず
なのだが、当時すでに彼らの乗る軍艦はなく、彼らに宛てら
れた任務は予科練での雑用。しかし兵舎を軍艦に見立てて、
「甲板磨き」などの無意味な作業が繰り返される。題名の由
来はここにあるものだ。
また、年若い上官による殴る蹴るの暴行は日常茶飯時で、敬
礼を忘れただけで公衆の面前で謝罪を繰り返しながら気を失
うまで殴られた者もいたという。
その一方で、本土決戦の準備として池に食用の鯉の稚魚を放
流(食べられるまでには4、5年掛かる)したり、その稚魚
の餌となる蠅を1000匹捕えたものには外泊が許されたりと、
とにかく阿呆らしい出来事が次々に紹介される。
極め付きは、靴を前後逆に履いて(理由は映画を観てのお楽
しみ)行う夜襲の訓練や、木製の戦車と木製の地雷(最後ま
で本物を見たことはなかったそうだ)を使った上陸部隊襲撃
などの戦術訓練で、これにはもはや司令部も本気ではなかっ
たと思えてくるものだ。
とにかく、命令一下の軍隊という組織の愚かしさが徹底して
描かれる。僕ら戦争を知らない世代は戦争映画を作戦や戦術
で見てしまうが、その戦争を行っているのは人間であって、
そこには人間特有の醜さが存在する。そういうことがよく判
る作品だった。

『サイドカーに犬』
一昨年に出品された『雪に願うこと』では、東京国際映画祭
史上初の4冠獲得を達成した根岸吉太郎監督による新作。
受賞作は骨太の力作と呼べる作品だったが、それに比べると
本作は、上映時間も1時間34分と少し短く、内容的にも少し

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05月31日(木)
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