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On the Production
by 井口健二
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■ショートバス、選挙、ジーニアス・パーティ、監督・ばんざい!、イラク−狼の谷−、怪談、ベクシル−2077日本鎖国−
ない。でも、そんな下心を感じてしまった辺りから、僕には
この作品が消化し切れなくなってしまった。
映画監督が次回作を模索するというのは、フェデリコ・フェ
リーニの作品を挙げるまでもなく、すでに知られた手法だ。
北野監督がそれに挑戦しようというのなら、それはそれでも
良いのだが、どうもそれが中途半端に終っている。特に前半
のサンプル部分が切れ切れで、ただの自嘲に終ってしまうの
も、観ていて心苦しくなった。
一方、岸本加世子、鈴木杏、江守徹が登場する後半のメイン
の物語も、何かもたもたしていて、最初に感じた消化不良が
最後まで緒を引いてしまった。どうせならこのメイン部分だ
けで、ちゃんと映画を作って欲しかったところだ。そうすれ
ばどんな作品であろうと、評価はし易かったように思える。
つまり前半のサンプル部分がじゃまに思えたものだ。
下心に見えた「ギャング映画」を撮りたいのならまた撮れば
いい。今回も最初にサンプルで提示されるシーンは切れがあ
ったし、観客としてもそれは観たいところだ。その他にもア
クションシーンの出来はどれも満足できるものに思えた。
ただし、こんな下心を見せた直後に「ギャング映画」を撮っ
たら、それこそ「やっぱし」と思われることは必定だろう。
ここはもう1本、奇天烈な「ギャグ映画」を見せてもらって
から、本格的な「ギャング映画」への再挑戦を期待したいと
ころだが。

『イラク−狼の谷−』“Kurtlar Vadis: IRAK”
本国では歴代動員記録を塗り替えたという2006年製作のトル
コ映画。
イラク北部クルド地区を舞台に、アメリカ軍による民間人の
虐殺や捕虜虐待、さらには売買目的の捕虜からの臓器摘出な
ど、実際の事件にインスパイアされたシーンを織り込んで、
トルコから潜入した元特務機関員の男と現地女性の交流と復
讐が描かれる。
クルド地区は、本来のクルド人と、アラブ、トルコの人たち
が入り混じり、アメリカ軍の監視の許、一応の平定が保たれ
ているが、その実態は…という作品だ。
物語は、実際に起きたアメリカ兵によるトルコ兵拘束事件を
背景に、それに抗議する目的でクルドに潜入したトルコ人の
男と、これも実際に起きた結婚式での祝砲をテロと見做され
て新郎を射殺されたアラブ人の女が主人公となる。
もちろん実際の事件は、発生した場所も異なるし、脈絡はな
いものだが、どちらもアメリカ軍が引き起こした事件である
ことは間違いないものだ。そして特に最初の事件がトルコ国
民の心を深く傷つけ、今回の映画製作の切っ掛けになったと
されている。
またこの作品では、ビリー・ゼイン演じる民間人の男(CI
A?)が暗躍して、わざと完全平和が訪れないように画策し
たり、そこでの利権を吸い取ろうとしている姿が描かれて、
反アメリカの意図が明白に見えるようになっている。
その一方で、映画の中では、宗教的な指導者の導師が「自殺
テロはイスラムの教義に反する」と語るなど、イスラム過激
派に対するメッセージも打ち出されている。
実は、映画の製作国のトルコは日本と同じ親米政策を採って
いる国で、その国でこのような作品が作られることは驚きだ
が、映画はゼインの出演でも判るようにエンターテインメン
トで作られたもので、アクション映画としての面白さも充分
に味わえるものだ。
ただし、米軍の機関誌「STARS & STRIPES」では、この作品
に対し「映画を観ないこと、上映館にも近付かないように」
という勧告を行ったそうだが…
なお、映画は元々同じトルコ人秘密諜報員が活躍する人気テ
レビシリーズがあり、その映画版ということだ。本国での動
員記録もそこに一因がありそうだが、映画の中に描かれたト
ルコ人の国民感情も大ヒットの根底にはある訳で、その点も
理解したいところだ。
主演は、テレビシリーズにも主演したネジャーティ・シャシ
ュマズ、他に『キングダム・オブ・ヘブン』に出演のハッサ
ン・マスード、米軍関係では『メンフィス・ベル』のゼイン
の他、『ビッグ・ウェンズデー』のゲイリー・ビジーらが出

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05月10日(木)
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